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仙道緑(1000円の男)
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    ■2006/04/19(水) マキコ その2

    一秒を惜しむかのように先を急ぐマキコさんの後についていくと、駅前の大きな百貨店に入っていく。一度だけ、デパートの入り口の自動ドアで僕が着いてきているかだけを確認したが、途中に会話は全くない。

    エレベーターに乗り込み、婦人服売り場のある階のボタンを押すと、狭い室内が静寂に包まれる。平日ではないので他に買い物客が何人かいるが、他人同士の沈黙と僕たちの沈黙は質が違う。「無音」と「無言」の差は、大きい。見えないようにほんの少しだけ肩をすくめると、僕は覚悟を決めた。
    方角はまだわからないが、この女性のベクトルはとても大きい。頑張ってついていかないと、今日一日はバラバラになってしまうだろう。

    エレベーターの扉が指定した階で開いたとき、マキコさんの右手が、すっと後ろにいる僕の方へ差し出された。手を握るタイミングなのだと気付き、何も言わずにその手を握ると、マキコさんは強く握り返して女性服売り場の方へ進んでいく。彼女が引っ張っているように見せないため、僕も相当早歩きで着いていく。他の人からは相当せっかちな性格のカップルに見られているだろうな・・・なんて事を考えていると、あるブランドの店の前で彼女が歩みを止めた。
    女性物のブランドに疎い僕でも聞いたことのある、一流といわないまでも高級と認識されているブランドの販売店だ。

    「この店?」
    と、一応恋人風に聞いてみるのだが、返事はない。辺りを見回して、何かを探しているようなのだが、その視線は華やかに飾られている商品ではなく、誰かを探しているように見えた。

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    ■2006/04/21(金) マキコ その3

    やがて、女性の店員が声をかけてくる。マキコさんは、握っている手の力を少し強めて、
    「○○さんはいますか。」
    と言った。やはり、ここに来た目的は買い物ではなく、人に会うことなのだろう。
    「申し訳ございません。○○は、本日お休みをいただいております。」
    ちょっと戸惑ったような店員さんが答える。整った顔立ちをきりりと引き締めた、買い物客らしかぬマキコさんの顔に、緊張したのかもしれない。
    「・・・そう。わかりました。」
    そう言うと、くるりと踵を返した。とっさに繋いでいた右手を離して、左手を繋ぐ。あっけにとられている店員さんに愛想よく会釈をして、僕もその場を立ち去る。

    途中、華麗に季節を謳う服飾には目もくれず、下りのエレベーターに乗りこむと、するりとマキコさんの手が解かれた。さっきまでの気勢をそがれて、心なしか肩を落としている。

    「・・・もう、いいわ。ありがとう。1000円でいいのよね。」
    そう言って、財布を取り出そうとする。
    「あなたがいいと言うのなら、それでいいですけど・・・。出来れば、さっきの事の事情を聞かせてくれませんか。あくまで、個人的なお願いなんですが。」
    財布に入った手を触れぬように抑えて、僕は言った。マキコさんは少し驚いたように僕を見つめる。僕を初めて見るかのような表情だ。
    「そうね。少しだけどお世話になった義理があるし・・・じゃ、どこかでお茶でもしながら、話しましょう。」
    そう言うと、タイミングよくエレベーターの自動ドアが開く。
    やっと、スタートラインに立てた。そんな気がした。

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    ■2006/04/23(日) マキコ その4

    目の前にある喫茶店に入り、腰をかけると、マキコさんは僕に断ってからタバコに火をつけた。口から吐き出される細い紫煙が、彼女の疲れと落胆を代弁しているようだ。
    「さっきのお店は、去年まで働いていたところなの。」
    アイスカフェオレの氷をかき混ぜながら、マキコさんが口を開いた。僕は黙って頷き、話の続きを促す。
    「その時、一緒に働いていたのが○○さんっていう、さっき探してた人なんだけどね。」
    「うん。」
    話は淡々と続く。
    「今考えてみれば、後から店に入ってきた私が、店について色々言うのが気に入らなかったのね。色々衝突もして、お互いギスギスしてたの。」
    そう言って、手持ち無沙汰な様子でカフェオレの氷をかき混ぜる。せっかちな彼女の癖らしい。
    「それで、このままじゃお互い進歩がないし、ストレスが溜まるだけと思ったから、私のほうからやめるって言い出したんだけどね。○○さんに店をやめますって言ったとき、わたし、なんて言われたと思う?」
    そう言うと、眉を両手の中指で吊り上げた。○○さんの真似なのだろう。声色も若干高くなる。
    「マキコさん。あなたは、確かに仕事が出来て頭の回転も速いけど、感性と考え方が男の人と同じなのよ。それじゃ、ここの仕事には向かないし、いつまでたっても彼氏もできないわ。・・・ってね。あたし、本当に悔しくて。何が悔しいって、本当にその通りなのよ。それを、あの人にズバリと言い当てられて、グウも言えない自分が悔しかった。」
    灰皿に置かれたタバコの煙が、店内の喧騒に溶け込むように上がっていく。

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    ■2006/04/26(水) マキコ その5

    「その後、私はアパレル系をやめて、派遣会社に入ったわ。本当は別のお店でアパレル系をやりたかったんだけど、いいところが見つからなくて。でも、今やっている仕事はとても自分に合ってると思うの。」
    堰を切ったかのように、マキコさんは話を続けた。
    「悔しいけど、やっぱり○○さんの言う通りなのよね。考え方が理系っぽいっていうか、合理的に考えすぎちゃって。アパレルの仕事も楽しかったけど、今やっている仕事の方が、自分を生かせる気がするわ。それはとても楽しいし、満足しているのよ。ただ・・・○○さんの予言通り、ずっと彼氏はできないままだったの。」
    そう言うと目を瞑り、苦笑いをする。
    冷静に見て、マキコさんは人並み以上の、美人と言えるルックスだ。ただ、強い意志を潜ませた目と、整い過ぎた顔立ちが、簡単な付き合いが出来ないという印象を、男性に与えているのかもしれない。と、僕は思った。彼女の仕事が有能だというのなら、その印象は尚更だろう。

    「今日、あなたに声をかけられたときも、丁度そのことを考えていたの。いつもなら、男の人に声をかけられても通り過ぎるんだけどね。あなたがなんでもするって言うから・・・ちょっと、驚いた顔の○○さんが見たくなっちゃったってワケ。」
    そういって、肩の荷を降ろしたかのように、マキコさんは喫茶店のソファにゆったりと体を預けた。色々溜まっていた話を吐き出して、スッキリしたのだろう。
    「どう?納得してくれた?あんまり格好いい話じゃないわね、やっぱり。」
    そう言って薄くなったカフェオレの氷をおざなりにかき混ぜると、マキコさんは二本目のタバコに火をつけた。

    少しの沈黙の後、口を開いたのは僕の方だった。
    「これは単なる勘ですけど。」
    そう言って断ると、マキコさんの視線が僕を捕らえる。彼女の視線は、いつも真剣で、相手の目を真っ直ぐに受け止める。
    「○○さんは、あなたが僕を連れてきても、なんとなく見抜いていたかもしれませんね。」
    「・・・どうして?」
    マキコさんは心の底から不思議そうに聞く。
    「話は単純です。僕は、あなたと付き合いそうにないタイプの人間なんですよ。○○さんが人を見る目があれば、僕の内面をすぐに見抜かれると思いますよ。」
    そして、○○さんが人を見る目があるのは確かだろう。○○さんは、マキコさんの内面を言い当てている。マキコさんが男性的な考え方というのならば、○○さんは女性的な視点をもっているはずだ。
    「それじゃあ、あなたと○○さんは、私がどんなタイプと付き合うか、わかるの?」
    「ええ、多分。これからどんな人と付き合うかは、わかりませんが、マキコさんと付き合って一番長続きするだろうっていうタイプは、過去の経験からわかりますよ。・・・知りたいですか?」
    今度は、僕の視線が彼女を捕らえる番だ。マキコさんはタバコを口に当てたまま、深く思案する。
    「知りたい・・・のが正直な気持ちけど、聞かないでおくわ。もう、これ以上人に予言されるのはまっぴらよ。」
    そう言うと、マキコさんは意を決したようにタバコの火を消して、立ち上がった。
    「行きましょう。話をできて、よかったわ。少しスッキリした。」

    店を出ると、マキコさんは財布から1000円札を取り出し、僕に手渡した。
    「ありがとう。値段の割には、ストレス解消できたかもね。もし、また私を見かけたら声をかけてみてね。あなたの予言が当たっているか、知りたい気持ちはあるのよ。」
    それだけ言うと、美しい黒髪を一度だけかきあげて微笑み、雑踏の中へと消えていった。彼女らしい、迷いのない颯爽とした歩き方で、彼女は彼女の日常へと戻っていった。

    さようなら、マキコさん。気が長くてのんびり屋の、あなたと同じ歩調ではないのだけれども、あなたをずっと見守れる男性と付き合うと、長続きすると思いますよ。僕の予言が当たることを、祈っています。


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    ■2006/04/27(木) リエ

    「ねぇ、キスするとき、目を閉じないのね・・・。」
    リエさんは飽きれたように言うと、サイドテーブルに置いてあるミネラルウォーターに手を伸ばした。
    「うん。キスをする女性の顔が好きなんだ。自分の大切な器官と相手の大切な器官が触れ合う行為を、目を瞑って受け入れる表情は、見てて興奮するものだよ。」
    僕が答える。酒に弱いくせにリエさんにすすめられて飲んだスクリュードライバーが頭に残っているせいか、今夜は必要以上に饒舌だ。
    「ふーん・・・。よくわからないけど、変態なんだね。」
    そう言って、リエさんはペットボトルに口をつける。ゴクリと揺れる喉を、僕はじっと見つめている。
    「まぁ、1000円だからね。まともな人間は、1000円じゃ買えないよ。」
    僕がそう言うと、リエさんは満足そうに微笑み、ペットボトルを置く。
    「そうね。1000円だものね。ちょっと変態でも我慢するわ。」
    リエさんの両腕が、僕の首に絡む。
    「鍵は鍵穴にあわせて作られるんだよ」なんて台詞を飲み込み、僕の手も彼女の背中を求め始める。

    音楽の消えた室内で聞こえるのは、二人が立てる音だけ。長い夜が、粗目糖の様にゆっくりと溶けていった。

    さようなら、リエさん。良い夢を見てください。


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    ■2006/04/28(金) ケイタイ

    声をかける女性を探す為に駅の構内を歩いていると、携帯電話で話しながら歩く人が多い事に、今更ながら気付かされる。「波長が合いそうな人だな」と思うことがあっても、通話中の人には、流石に話しかけられない。1000円の男だけではなく、キャッチやスカウトの人達を避けるお守りとしても、携帯電話は機能するのだ。

    僕も現代社会に生きる以上、携帯電話を持たないわけにはいかない。主に使うのは仕事の為だけど、「1000円の男」として女性と話しているときは、鞄に入れて鳴らないようにしている。女性に番号を聞かれることもよくあるのだが、基本的に番号を教えることはない。会うのは一度きりというルールがあるわけではないが、その女性と再び会えるかどうかは、縁と運命にまかせたほうが、清々しいと思っているからだ。

    携帯電話は「別れ」を減らしたのかもしれない。データさえ入力すれば、ボタン一つでいつでも連絡を取ることができる。だが、その反面で、登録はしたけど連絡はしない。そして、気がつけば疎遠になり、やがて忘れ去られるという電話番号も、増え続けるのだろう。

    二度と会えないのかもしれない。もう、話をすることはないのかもしれない。そう考えると、別れは確かに悲しい。だが、好きな人に忘れられるということは、別れる事よりも悲しい。

    机の引き出しにしまってあった古い携帯電話を見て、ふとそう思いました。


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    ■2006/04/30(日) シホ

    「これはお世辞とかじゃなくて、純粋な疑問なんだけど。」
    僕は、好奇心に負けて口を開いてしまった。目の前の女性は、シホさんという。今日最初に声をかけた女性で、「1000円の男」の質問をすると、「何それ、面白そう!」と言って、ついて来た女性だ。

    「なになに?」
    頬に手をついて、シホさんが楽しそうに聞き返す。
    「シホさんは・・・高校生?」
    「えっ、そうだけど?」
    質問へ間髪を入れずに答えてくる。それが当然、とでも言うように、何も臆すところがない。
    「やっぱりそうか。大人っぽいから、声をかけた時は、わからなかったよ。」
    「ふーん。大人っぽいってのは、メイクしてるから、よくいわれるけど。女子高生だと、何かマズイの?っていうか、なんで私が女子高生だとわかったの?」
    頭の回転が速いのだろう。矢継ぎ早に質問が飛んでくる。丁寧に化粧がしてあるその表情は、それとわかっていても、やはり女子高生には見えなかった。
    「女子高生に声はかけないっていうルールはないんだけどね。ただ、制服のままだったら、変な目で見られるかもしれないから、声をかけなかったかもしれない。」
    うんうんと、シホさんは頷く。
    「何で年齢がわかったのかというと、こうして向かい合ったときに手を見たんだ。手は年齢をごまかせないって言うからね。手の甲を見る限り、20代より若いかな?って思っただけだよ。」
    そう言うと、シホさんは水滴のついた紅茶のグラスから手を放し、関心したように自分の手をしげしげと見つめた。
    「へぇー。手から年齢がわかるんだ。ちょっとスゴイかも。」
    「手を隠す人はあまりいないからね。観察してみるとすぐにわかるようになるよ。」

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    ■2006/05/02(火) シホ その2

    その後、シホさんと雑談を交えながら、今日の予定を決めることにした。「何でもしていい」と言われて、即座に希望を言える女性は少ない。シホさんも、唇を尖らせて悩みに悩んだ結果、結局はカラオケに行くと言い出した。

    僕は声が低いほうなので、曲のレパートリーは多くない。さらに致命的なのが、TVを全く見ないために、最近の曲が全然わからない。はっきり言って、カラオケのパートナーとして最適な人材とは言いがたい。そんな旨をシホさんに伝えたのだが、それでもいい、とシホさんは言う。
    「あたしも練習したい曲があるし、さ。いい機会だし、友達の前で歌わない曲とかも歌えるじゃん?それに、千さんの声は確かに低いけど、あたしは、いい声だと思うよ。」
    そう言うと、空になったガムシロップの容器やペーパーを片付け始めた。
    「さ、いこっ。」
    トレイを持って立ち上がると、シホさんの歩みに迷いはなかった。その歩調が意味するように、僕に選択権は無い。自分のトレイを片付けると、彼女が良く友達といくというカラオケへとついて行った。

    カラオケの内容は、特筆することはあまりない。
    僕の歌う、やや古い曲を彼女は殆ど知っていたし、彼女が僕にリクエストした曲も声の低いアーティストが多く、なんとか、ボロを出さずに切り抜けられた。とはいえ、「1000円の男」として、もう少しカラオケ全般は練習しなければいけないのかもしれない。そんな事を思っていると、あっという間に2時間目を告げる電話が鳴ったのだった。

    延長をせずにカラオケから出ると、辺りはかなり暗くなっていた。季節は春に差し掛かっているとはいえ、まだまだ夜の帳は腕が長い。徐々に飲み屋の灯りが灯されていく繁華街を見て、シホさんは名残惜しそうに
    「そろそろ門限だ。」
    と呟いた。そして、急に僕の腕を掴むと、
    「ねぇ、最後にプリクラ撮ろう。」
    と言って、ネオンで光る瞳を僕に向けた。

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    ■2006/05/03(水) シホ その3

    目の前に見える大きなゲームセンターのプリクラコーナーに入ろうとしたが、その店は男性は立ち入り禁止らしく、別の店へ移動する。
    僕が学生のころは、プリクラの機体はもう少し慎ましいサイズで、ましてや男女別などに分かれてはいなかった。離れているつもりはなかったのだが、友人に合わせて関わったりしていない間に、俗世は常に流れ続けているのだろう。
    僕が学生のときに撮った、苦笑いが貼りついているあのプリクラは、まだ誰かの手帳の中にいるのだろうか。・・・等と考えていると、シホさんが袖を引いていることに気づく。
    「ねぇ、背景はどれにする?」
    無数にある色とりどりの枠を、シホさんは嬉しそうに選んでいる。
    「はっきり言って、僕はプリクラを何年も撮ってないんだ。まるっきり初心者レベルだから、操作とかはシホさんにお任せするよ。」
    僕がそう言うと、シホさんは少し残念そうに頷いて、再びフレームや写真のサイズを選び始めた。ひょっとすると、僕は「夕飯は何でもいい」系のミスを犯したのかもしれない。そう思って少し後悔したが、シホさんはさして悩む様子も無く、慣れた手つきで選択を続けていく。
    「オッケー、じゃ、撮るよ。ポーズはどうする?」
    そう言ってシホさんが決定ボタンを押すと、背後から色つきの幕が降りてきて、強烈なライトが下から照らされる。なるほど、僕の時代より値段が上がっただけあって、色々な機能が付いているようだ。などと、感心している暇はない。目の前の画面では、カウントダウンが着々と進んでいる。
    「ポーズ?どうすればいいんだい?」
    僕がとまどっていると、シホさんは少し首を捻って考えると、僕の両腕を掴み、自分の肩の上を通して、僕の手を両手で掴む。年下の女性にリードされっぱなしで情けないが、この件に関しては経験の差は歴然だ。素直に彼女の頭の後ろから画面の奥にあるカメラを探すと、仄かに香る香水の他に、女の子らしい髪の匂いがして、少しドキリとするが、シホさんはそんな事に気づくそぶりも無く、破顔一笑で画面に向かっている。
    「3,2,1」
    録音された明るい声が、シャッターのタイミングを何度か告げると、今度は落書きをする為に、機体の裏に回れとディスプレイから指示をされる。
    「あ、落書きはあたしがするよ。ちょっと待っててね。」
    そう言うと、シホさんは一人カーテンの中へ入っていった。手持ち無沙汰ではあるものの、確かにこの僕に素晴らしい落書きができるとは、自分でも思えない。店の中を観察したりして時間をつぶすことにした。カラオケはともかく、ゲームセンターのプリクラは「1000円の男」をやっていないと、まず入る機会の無い場所だ。

    「はい、出来たよ。あれ?そっちのプリクラのほうがよかった?」
    僕が他の機体の説明文を熟読していると、シホさんが出来上がったプリクラを渡してくれた。軽くかぶりを振り、貰ったプリクラを見ようとすると、
    「あ、ダメ。恥ずかしいから、私がいなくなってから見て!」
    と制される。なぜ恥ずかしいのかはよくわからなかったが、その通りにすべく、鞄に入れる。シホさんも、「月曜日、皆に自慢しよっと。」と言って、大切そうに手帳にプリクラをしまう。固い笑顔が写っていないか心配だが、シホさんの自慢になるような物になったのなら、光栄だ。

    ゲームセンターを出、改札口までシホさんを送ると、シホさんは何度も手を振りながら、電車へ乗りこんでいった。門限は七時なのだろう。大人びた服装や化粧と、言動の節々に垣間見える子供らしさのギャップが、可愛らしい女性だった。


    家路へ向かう電車内。忘れないうちにと、鞄を開けて件のプリクラを見てみる。

    笑顔のシホさんと、そんなシホさんに抱きついた格好の僕。紛れも無く先ほどの瞬間を切り取ったものだ。・・・が、少々違和感があるとすれば、僕に猫の耳とヒゲが描かれ、「シホのもの。1000円でお買い上げ!」と、矢印で注釈がされている事だろう。
    僕は表情を崩さないように苦労しながらプリクラをしまい、鞄を閉じると、このプリクラを部屋のどこに隠そうか思案をしながら、まぶたを合わせて、座席に深くもたれかかった。

    さようなら、シホさん。お友達に誤解をされないようにね。

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    ■2006/05/05(金) カミサマ

    ある土曜日の夕方。駅前の通りで、ベンチに繋がれて主人を待つ犬を触っていると、二人組の宣教師に話しかけられた。
    きっちりとアイロンのかけられたスーツにリュックサックという、アンバランスな格好をした彼等は、たどたどしい日本語で、神様について僕と話したいのだと言う。

    普段の僕なら大多数の日本人と同じく、愛想笑いで通り過ぎるところだったが、たまたまその日は、ほんの数十分前まで「1000円の男」として女性の相手をしていて、神経が外側に向けられたままになっていた。流石に人のよさそうな彼等から1000円を貰う気にはなれなかったが、これも何かの縁だと思い、道のど真ん中でベンチにも座らずに宗教談義をする事になった。今思えば、失礼な質問を投げかけたりもしたが、宣教師の二人は丁寧に答えてくれた。彼らが何を言おうと、信じる気は全く無いというスタンスで挑んだのに、根気良く付き合ってくれたのはありがたいことだと思う。

    そもそも、僕個人が神様を信じないだけで、その存在を否定するつもりも肯定するつもりも無かった。ただ、「1000円の男」として、「神を信じる人間」というものを観察したかったのだ。人は、色々な形で不幸からの逃げ道を作ろうとする。それを信じて幸せなのなら、神だろうと金だろうと、何を信じるのも個人の自由だ。僕がそう告げると、宣教師の二人も、その考えを理解できると言っていた。

    ただ、死後の世界が存在するかの話は、いつまでも価値観がかみ合わないままだった。死後、偉大な神の元で存在ができるという彼等の希望は、僕個人のそれとはかみ合わないものだった。
    彼らから見れば、東洋的な哲学なのだろうか。この、退屈で長い長い人生が終わった暁には、ちゃんと無にかえして欲しいと、僕は思う。いつかはわからないその時がくるまで、僕はせっせと道行く女性に声をかけ、暇を潰して貰い続けているのだ。その上、女性達からお金をいただいているのだから、望外であろう。

    ・・・もっとも、そんな実情は彼らには言えなかったし、言うつもりもなかったのだが。

    神様は、神様の元にいたくないという僕の願いを叶えてくれるのだろうか。
    残念ながら、僕がせっせと貯め続ける1000円札では、その御心は動かせそうにない。

    興味深そうに視線を投げる通行人からは、鼻っ柱の強い若造が、宗教という巨巌に挑戦をしているかのように見えたのだろうか。時々、幾人かが冷やかし半分で立ち止まり、やがて僕たちと目が合うと、どこか照れたように歩き始める。

    気が付けば、繋がれていた犬は消えていた。幸せが待つ家へと、飼い主と共に帰ったのだろう。その日一番和ませてくれた彼に、お別れの挨拶くらいはしたかったのだが。

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