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仙道緑(1000円の男)
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    不快な表現や、表現不足で忌諱に触れることもあると思いますが、何卒ご容赦下さい。

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    ■2006/04/23(日) マキコ その4

    目の前にある喫茶店に入り、腰をかけると、マキコさんは僕に断ってからタバコに火をつけた。口から吐き出される細い紫煙が、彼女の疲れと落胆を代弁しているようだ。
    「さっきのお店は、去年まで働いていたところなの。」
    アイスカフェオレの氷をかき混ぜながら、マキコさんが口を開いた。僕は黙って頷き、話の続きを促す。
    「その時、一緒に働いていたのが○○さんっていう、さっき探してた人なんだけどね。」
    「うん。」
    話は淡々と続く。
    「今考えてみれば、後から店に入ってきた私が、店について色々言うのが気に入らなかったのね。色々衝突もして、お互いギスギスしてたの。」
    そう言って、手持ち無沙汰な様子でカフェオレの氷をかき混ぜる。せっかちな彼女の癖らしい。
    「それで、このままじゃお互い進歩がないし、ストレスが溜まるだけと思ったから、私のほうからやめるって言い出したんだけどね。○○さんに店をやめますって言ったとき、わたし、なんて言われたと思う?」
    そう言うと、眉を両手の中指で吊り上げた。○○さんの真似なのだろう。声色も若干高くなる。
    「マキコさん。あなたは、確かに仕事が出来て頭の回転も速いけど、感性と考え方が男の人と同じなのよ。それじゃ、ここの仕事には向かないし、いつまでたっても彼氏もできないわ。・・・ってね。あたし、本当に悔しくて。何が悔しいって、本当にその通りなのよ。それを、あの人にズバリと言い当てられて、グウも言えない自分が悔しかった。」
    灰皿に置かれたタバコの煙が、店内の喧騒に溶け込むように上がっていく。

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    ■2006/04/26(水) マキコ その5

    「その後、私はアパレル系をやめて、派遣会社に入ったわ。本当は別のお店でアパレル系をやりたかったんだけど、いいところが見つからなくて。でも、今やっている仕事はとても自分に合ってると思うの。」
    堰を切ったかのように、マキコさんは話を続けた。
    「悔しいけど、やっぱり○○さんの言う通りなのよね。考え方が理系っぽいっていうか、合理的に考えすぎちゃって。アパレルの仕事も楽しかったけど、今やっている仕事の方が、自分を生かせる気がするわ。それはとても楽しいし、満足しているのよ。ただ・・・○○さんの予言通り、ずっと彼氏はできないままだったの。」
    そう言うと目を瞑り、苦笑いをする。
    冷静に見て、マキコさんは人並み以上の、美人と言えるルックスだ。ただ、強い意志を潜ませた目と、整い過ぎた顔立ちが、簡単な付き合いが出来ないという印象を、男性に与えているのかもしれない。と、僕は思った。彼女の仕事が有能だというのなら、その印象は尚更だろう。

    「今日、あなたに声をかけられたときも、丁度そのことを考えていたの。いつもなら、男の人に声をかけられても通り過ぎるんだけどね。あなたがなんでもするって言うから・・・ちょっと、驚いた顔の○○さんが見たくなっちゃったってワケ。」
    そういって、肩の荷を降ろしたかのように、マキコさんは喫茶店のソファにゆったりと体を預けた。色々溜まっていた話を吐き出して、スッキリしたのだろう。
    「どう?納得してくれた?あんまり格好いい話じゃないわね、やっぱり。」
    そう言って薄くなったカフェオレの氷をおざなりにかき混ぜると、マキコさんは二本目のタバコに火をつけた。

    少しの沈黙の後、口を開いたのは僕の方だった。
    「これは単なる勘ですけど。」
    そう言って断ると、マキコさんの視線が僕を捕らえる。彼女の視線は、いつも真剣で、相手の目を真っ直ぐに受け止める。
    「○○さんは、あなたが僕を連れてきても、なんとなく見抜いていたかもしれませんね。」
    「・・・どうして?」
    マキコさんは心の底から不思議そうに聞く。
    「話は単純です。僕は、あなたと付き合いそうにないタイプの人間なんですよ。○○さんが人を見る目があれば、僕の内面をすぐに見抜かれると思いますよ。」
    そして、○○さんが人を見る目があるのは確かだろう。○○さんは、マキコさんの内面を言い当てている。マキコさんが男性的な考え方というのならば、○○さんは女性的な視点をもっているはずだ。
    「それじゃあ、あなたと○○さんは、私がどんなタイプと付き合うか、わかるの?」
    「ええ、多分。これからどんな人と付き合うかは、わかりませんが、マキコさんと付き合って一番長続きするだろうっていうタイプは、過去の経験からわかりますよ。・・・知りたいですか?」
    今度は、僕の視線が彼女を捕らえる番だ。マキコさんはタバコを口に当てたまま、深く思案する。
    「知りたい・・・のが正直な気持ちけど、聞かないでおくわ。もう、これ以上人に予言されるのはまっぴらよ。」
    そう言うと、マキコさんは意を決したようにタバコの火を消して、立ち上がった。
    「行きましょう。話をできて、よかったわ。少しスッキリした。」

    店を出ると、マキコさんは財布から1000円札を取り出し、僕に手渡した。
    「ありがとう。値段の割には、ストレス解消できたかもね。もし、また私を見かけたら声をかけてみてね。あなたの予言が当たっているか、知りたい気持ちはあるのよ。」
    それだけ言うと、美しい黒髪を一度だけかきあげて微笑み、雑踏の中へと消えていった。彼女らしい、迷いのない颯爽とした歩き方で、彼女は彼女の日常へと戻っていった。

    さようなら、マキコさん。気が長くてのんびり屋の、あなたと同じ歩調ではないのだけれども、あなたをずっと見守れる男性と付き合うと、長続きすると思いますよ。僕の予言が当たることを、祈っています。


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    ■2006/04/27(木) リエ

    「ねぇ、キスするとき、目を閉じないのね・・・。」
    リエさんは飽きれたように言うと、サイドテーブルに置いてあるミネラルウォーターに手を伸ばした。
    「うん。キスをする女性の顔が好きなんだ。自分の大切な器官と相手の大切な器官が触れ合う行為を、目を瞑って受け入れる表情は、見てて興奮するものだよ。」
    僕が答える。酒に弱いくせにリエさんにすすめられて飲んだスクリュードライバーが頭に残っているせいか、今夜は必要以上に饒舌だ。
    「ふーん・・・。よくわからないけど、変態なんだね。」
    そう言って、リエさんはペットボトルに口をつける。ゴクリと揺れる喉を、僕はじっと見つめている。
    「まぁ、1000円だからね。まともな人間は、1000円じゃ買えないよ。」
    僕がそう言うと、リエさんは満足そうに微笑み、ペットボトルを置く。
    「そうね。1000円だものね。ちょっと変態でも我慢するわ。」
    リエさんの両腕が、僕の首に絡む。
    「鍵は鍵穴にあわせて作られるんだよ」なんて台詞を飲み込み、僕の手も彼女の背中を求め始める。

    音楽の消えた室内で聞こえるのは、二人が立てる音だけ。長い夜が、粗目糖の様にゆっくりと溶けていった。

    さようなら、リエさん。良い夢を見てください。


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    ■2006/04/30(日) シホ

    「これはお世辞とかじゃなくて、純粋な疑問なんだけど。」
    僕は、好奇心に負けて口を開いてしまった。目の前の女性は、シホさんという。今日最初に声をかけた女性で、「1000円の男」の質問をすると、「何それ、面白そう!」と言って、ついて来た女性だ。

    「なになに?」
    頬に手をついて、シホさんが楽しそうに聞き返す。
    「シホさんは・・・高校生?」
    「えっ、そうだけど?」
    質問へ間髪を入れずに答えてくる。それが当然、とでも言うように、何も臆すところがない。
    「やっぱりそうか。大人っぽいから、声をかけた時は、わからなかったよ。」
    「ふーん。大人っぽいってのは、メイクしてるから、よくいわれるけど。女子高生だと、何かマズイの?っていうか、なんで私が女子高生だとわかったの?」
    頭の回転が速いのだろう。矢継ぎ早に質問が飛んでくる。丁寧に化粧がしてあるその表情は、それとわかっていても、やはり女子高生には見えなかった。
    「女子高生に声はかけないっていうルールはないんだけどね。ただ、制服のままだったら、変な目で見られるかもしれないから、声をかけなかったかもしれない。」
    うんうんと、シホさんは頷く。
    「何で年齢がわかったのかというと、こうして向かい合ったときに手を見たんだ。手は年齢をごまかせないって言うからね。手の甲を見る限り、20代より若いかな?って思っただけだよ。」
    そう言うと、シホさんは水滴のついた紅茶のグラスから手を放し、関心したように自分の手をしげしげと見つめた。
    「へぇー。手から年齢がわかるんだ。ちょっとスゴイかも。」
    「手を隠す人はあまりいないからね。観察してみるとすぐにわかるようになるよ。」

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    ■2006/05/02(火) シホ その2

    その後、シホさんと雑談を交えながら、今日の予定を決めることにした。「何でもしていい」と言われて、即座に希望を言える女性は少ない。シホさんも、唇を尖らせて悩みに悩んだ結果、結局はカラオケに行くと言い出した。

    僕は声が低いほうなので、曲のレパートリーは多くない。さらに致命的なのが、TVを全く見ないために、最近の曲が全然わからない。はっきり言って、カラオケのパートナーとして最適な人材とは言いがたい。そんな旨をシホさんに伝えたのだが、それでもいい、とシホさんは言う。
    「あたしも練習したい曲があるし、さ。いい機会だし、友達の前で歌わない曲とかも歌えるじゃん?それに、千さんの声は確かに低いけど、あたしは、いい声だと思うよ。」
    そう言うと、空になったガムシロップの容器やペーパーを片付け始めた。
    「さ、いこっ。」
    トレイを持って立ち上がると、シホさんの歩みに迷いはなかった。その歩調が意味するように、僕に選択権は無い。自分のトレイを片付けると、彼女が良く友達といくというカラオケへとついて行った。

    カラオケの内容は、特筆することはあまりない。
    僕の歌う、やや古い曲を彼女は殆ど知っていたし、彼女が僕にリクエストした曲も声の低いアーティストが多く、なんとか、ボロを出さずに切り抜けられた。とはいえ、「1000円の男」として、もう少しカラオケ全般は練習しなければいけないのかもしれない。そんな事を思っていると、あっという間に2時間目を告げる電話が鳴ったのだった。

    延長をせずにカラオケから出ると、辺りはかなり暗くなっていた。季節は春に差し掛かっているとはいえ、まだまだ夜の帳は腕が長い。徐々に飲み屋の灯りが灯されていく繁華街を見て、シホさんは名残惜しそうに
    「そろそろ門限だ。」
    と呟いた。そして、急に僕の腕を掴むと、
    「ねぇ、最後にプリクラ撮ろう。」
    と言って、ネオンで光る瞳を僕に向けた。

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    ■2006/05/03(水) シホ その3

    目の前に見える大きなゲームセンターのプリクラコーナーに入ろうとしたが、その店は男性は立ち入り禁止らしく、別の店へ移動する。
    僕が学生のころは、プリクラの機体はもう少し慎ましいサイズで、ましてや男女別などに分かれてはいなかった。離れているつもりはなかったのだが、友人に合わせて関わったりしていない間に、俗世は常に流れ続けているのだろう。
    僕が学生のときに撮った、苦笑いが貼りついているあのプリクラは、まだ誰かの手帳の中にいるのだろうか。・・・等と考えていると、シホさんが袖を引いていることに気づく。
    「ねぇ、背景はどれにする?」
    無数にある色とりどりの枠を、シホさんは嬉しそうに選んでいる。
    「はっきり言って、僕はプリクラを何年も撮ってないんだ。まるっきり初心者レベルだから、操作とかはシホさんにお任せするよ。」
    僕がそう言うと、シホさんは少し残念そうに頷いて、再びフレームや写真のサイズを選び始めた。ひょっとすると、僕は「夕飯は何でもいい」系のミスを犯したのかもしれない。そう思って少し後悔したが、シホさんはさして悩む様子も無く、慣れた手つきで選択を続けていく。
    「オッケー、じゃ、撮るよ。ポーズはどうする?」
    そう言ってシホさんが決定ボタンを押すと、背後から色つきの幕が降りてきて、強烈なライトが下から照らされる。なるほど、僕の時代より値段が上がっただけあって、色々な機能が付いているようだ。などと、感心している暇はない。目の前の画面では、カウントダウンが着々と進んでいる。
    「ポーズ?どうすればいいんだい?」
    僕がとまどっていると、シホさんは少し首を捻って考えると、僕の両腕を掴み、自分の肩の上を通して、僕の手を両手で掴む。年下の女性にリードされっぱなしで情けないが、この件に関しては経験の差は歴然だ。素直に彼女の頭の後ろから画面の奥にあるカメラを探すと、仄かに香る香水の他に、女の子らしい髪の匂いがして、少しドキリとするが、シホさんはそんな事に気づくそぶりも無く、破顔一笑で画面に向かっている。
    「3,2,1」
    録音された明るい声が、シャッターのタイミングを何度か告げると、今度は落書きをする為に、機体の裏に回れとディスプレイから指示をされる。
    「あ、落書きはあたしがするよ。ちょっと待っててね。」
    そう言うと、シホさんは一人カーテンの中へ入っていった。手持ち無沙汰ではあるものの、確かにこの僕に素晴らしい落書きができるとは、自分でも思えない。店の中を観察したりして時間をつぶすことにした。カラオケはともかく、ゲームセンターのプリクラは「1000円の男」をやっていないと、まず入る機会の無い場所だ。

    「はい、出来たよ。あれ?そっちのプリクラのほうがよかった?」
    僕が他の機体の説明文を熟読していると、シホさんが出来上がったプリクラを渡してくれた。軽くかぶりを振り、貰ったプリクラを見ようとすると、
    「あ、ダメ。恥ずかしいから、私がいなくなってから見て!」
    と制される。なぜ恥ずかしいのかはよくわからなかったが、その通りにすべく、鞄に入れる。シホさんも、「月曜日、皆に自慢しよっと。」と言って、大切そうに手帳にプリクラをしまう。固い笑顔が写っていないか心配だが、シホさんの自慢になるような物になったのなら、光栄だ。

    ゲームセンターを出、改札口までシホさんを送ると、シホさんは何度も手を振りながら、電車へ乗りこんでいった。門限は七時なのだろう。大人びた服装や化粧と、言動の節々に垣間見える子供らしさのギャップが、可愛らしい女性だった。


    家路へ向かう電車内。忘れないうちにと、鞄を開けて件のプリクラを見てみる。

    笑顔のシホさんと、そんなシホさんに抱きついた格好の僕。紛れも無く先ほどの瞬間を切り取ったものだ。・・・が、少々違和感があるとすれば、僕に猫の耳とヒゲが描かれ、「シホのもの。1000円でお買い上げ!」と、矢印で注釈がされている事だろう。
    僕は表情を崩さないように苦労しながらプリクラをしまい、鞄を閉じると、このプリクラを部屋のどこに隠そうか思案をしながら、まぶたを合わせて、座席に深くもたれかかった。

    さようなら、シホさん。お友達に誤解をされないようにね。

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    ■2006/05/07(日) タカコ

    ラジオで天気予報士が嬉しそうに語った通り、その日は春らしい陽気が街に差し込んでいた。
    僕はその日も街に出て、少し早めに前を歩いていた女性に、声をかけていた。
    髪の色はナチュラルブラウン。白地に小さく花柄が散りばめられたロングワンピースに、薄いピンク色のジャケット。大き目の鞄はヴィトンではなく、ピンクのシャネル。身に着けている物は高級品だが、水商売をする人が独特に持つ脱力感がなく、引き締まった歩き方をする人だった。

    お嬢様という人種なのかもしれない。そう考えながら話しかけたが、僕がお決まりの台詞を言っている間も、僕がそこに存在しないかのように、一度も僕と目を合わせること無く、通り過ぎていった。
    特段、珍しいことではない。むしろ、当たり前の反応だ。さっさと諦めて、他の人に声をかけようと踵を返そうとした瞬間、彼女の足がピタリと止まったのが、視界の片隅に入った。同じペースで追いかけていたら、ぶつかっていたかもしれない。
    「な、なんでもするって、どういうことですか。」
    固く鞄の紐を握り締め、俯きながら僕に質問を投げかける。知らない男性と話したせいなのか、明らかにその声は緊張していた。
    「額面通りだよ。犯罪や、不可能なこと以外なら、1000円で今日一日、あなたの好きなことをしてあげるよ。」
    そう言うと、僕は喫茶店を指差した。
    「もしよければ、そこの喫茶店で話をしませんか?ルールを説明しますよ。」
    そう言うと、その女性は視線を伏せたまましばらく考え、やがてゆっくりと頷いた。肩にかけた鞄の紐を持つ手は、まだ、きゅっと締まっていた。

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    ■2006/05/08(月) タカコ その2

    アイスソイラテを手に抱え、僕からルールの説明を受けるタカコさんの目は真剣だった。時折、唇を濡らす程度にストローに口をつけたが、それ以外は余計な話や質問は一切無かった。
    「で、何か質問はありますか。」
    ルールを説明し終わり、僕が尋ねると、タカコさんは驚いたかのように顔をあげた。自分の胸の中で、何かを考えていたのだろう。
    「あ、あのっ、私は・・・男の人とこういう事を、したことがなくて・・・。」
    顔を赤くして出した言葉は、小声でたどたどしく、小鳥の様なか細い声だった。やはり、お嬢様なのだろう。僕の中で、段々とタカコさんのイメージが固まってきた。

    「大丈夫。1000円で男性を好きにするなんて人は、同世代の子でも、きっと殆どいませんよ。」
    そう言って、僕は指を組み合わせる。
    「何か、ないですか。普通ならできないけど、やってみたかった事。一生に一度くらい、こんな日はあるものですよ。」
    僕の甘言は、赤くなったタカコさんの耳に届いているのだろうか。なんだか、自分が詐欺師のような気がしてきた。

    「・・・してくれるんですよね。」
    下を向いて小さく、タカコさんが呟いた。言葉を聞き逃さないために、少し前かがみになって音を拾う。「なんでも、してくれるんですよね。」
    どうやら、お買い上げは決まったようだ。安心した僕は、ゆったりと椅子に腰をかけ直し、背もたれに腕をかけて、言った。
    「なんでも、するよ。してほしいことは、決まった?」
    「裸にも、なってくれるんですよね。」
    背もたれにかけた腕が、がくりと落ちそうになる。驚いてタカコさんの目を見たが、相変わらず真剣そのものだ。意を決したタカコさんの口からは、思ってもいなかった言葉が飛び出てきた。

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    ■2006/05/09(火) タカコ その3

    「脱ぐ?・・・別にいいけど、ここで?」
    辺りを気にしながら声を潜めて僕が言うと、タカコさんは驚いたように顔の前で手を振った。
    「い、いえ、ここじゃなくて・・・。どこか、人のいない・・・。」
    と言って、口ごもってしまった。ホテル、という単語を口にするのが恥ずかしいのだろう。
    「お望みならば、勿論脱ぎますよ。ただ、理由を教えてもらえると嬉しいかな。」
    そう言うと、タカコさんの視線は再び机へと落ちる。タカコさんの中で、人生最大のピンチの一つなんだろうな、と考えると、待つのも苦にはならなかった。

    「1000円の男」が良く使う、駅構内にある喫茶店は、いつも待ち合わせや時間を潰す人で溢れ、喧騒と携帯電話のメールが攪拌されている。タカコさんが思案している間、僕はのんびりと店内の人間を観察していた。いつもバイトに入っている青年は、毎回違う女性と店に来る僕をどう思っているのだろうか・・・。
    などと考えていると、誰かがグラスを机に置いた音と同時に、タカコさんの小さな口が開いた。
    「私、趣味で絵を描いているんです。今日は、スケッチブックを持ってきてないけど、ノートと鉛筆ならあるから、絵を描きたいんです!」
    最初はか細かった声は、次第にトーンがあがっていた。隣のテーブルで机に突っ伏して寝ていた若いサラリーマンがゆっくりと頭をあげると、煩そうに視線を送ってくる。タカコさんの言葉が嘘か本当かはわからなかったが、信じるには足る理由だ。一応、納得をすることにする。

    「なるほど。理由はわかりました。別に僕の鍛えてない体でよければ、一肌脱ぎますよ。」
    そう言うと、僕は手の平を天に向け、
    「それでは、話も決まったことだし、そろそろ行きましょうか。」
    と促して、タカコさんを立たせる。タカコさんの頼んだアイスソイラテは、結局殆ど飲まれないままだった。寝不足といった表情の、隣のサラリーマンは、怪訝そうな目で僕たちを一遍眺めると、再び腕を組んで目を閉じた。

    コンビニで飲み物を買うと、僕たちは殆ど会話も無いまま、ホテル街へと足を運ぶ。殆どの娯楽施設がそろっているのが、この街のいい所だ。買い物を除けば、僕個人が利用することは無いが、1000円の男には、とても使い勝手がいい。

    休憩・宿泊と書かれた看板の前に立つと、タカコさんは珍しげに辺りを見回した。普段、この辺りには立ち寄ることも無いのだろう。
    「さ、入りましょう。」
    僕がにっこりと微笑んでそう言うと、タカコさんは強張った表情で、ゆっくりと頷いた。二人で、入り組んだ形の入り口を通り、フロントへと足を運ぶ。彼女の春らしい爽やかなファッションが、ラブホテルという場所で妙に悲しく見えたのは、僕の気のせいなのだろうか。

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    ■2006/05/11(木) タカコ その4

    部屋に入った僕は、机の上に鞄を置くと、部屋を物珍しげに眺めるタカコさんの前に立ち、シャツの袖のボタンに手をかけながら言った。
    「さて、脱ぐというのはどこまで脱げばいいのですか?」
    それまで泳いでいたタカコさんの視線は、僕が胸のボタンを外しにかかると、その手に釘付けになった。ゴクリ、と唾を飲む音まで聞こえてきそうなほど、動作が固くなっている。
    「ズボンは?パンツは?上(上半身)は脱いでもいいんですよね。」
    そう言うと、シャツを脱いで、皺にならないように椅子の上にかける。
    「恥ずかしく・・・ないの?脱ぐことは。」
    インナーのTシャツを脱いで上半身裸になると、タカコさんが口を開いた。僕はTシャツを簡単にたたみながら、タカコさんと視線を合わせる。
    「別に、恥ずかしくないですよ。僕が鈍いほうなのかもしれないけれど、全裸でも別に緊張しませんね。」
    椅子の上に、たたんだTシャツを置く。気が付けば、タカコさんはまだ部屋に入ったときの格好のままで、鞄すら肩にかけたままだった。
    「そう・・・。下は、脱がなくていいです。」
    そう言うと、タカコさんは僕のほうへ向かってゆっくりと歩いてきて、僕の心臓の辺りに手のひらを当て、顔を近づけると、「ハァ」と熱い息を僕の肌に吹きかけた。
    「やっぱり・・・、男の人の体って綺麗ですね。」
    舐るように、引っかくように、タカコさんの手は僕の体の輪郭を確かめる。水気が含まれた熱い息に比べ、タカコさんの手は驚くほど冷たい。

    ふと、タカコさんの肩から鞄が無造作に落とされた。それで自由になった両手は、休むことなく僕の体を観察し続ける。二人の間に会話は無く、ただ、タカコさんの呼吸と僕の心音が、部屋の中で交じり合っていた。

    両手で顎を撫でられた時、床に転がるシャネルの鞄が目に入った。ああ、あれは彼女の抜け殻なんだ。捕らえられたのは、僕の方なのだ・・・。そんな考えが、頭をよぎった。


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