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仙道緑(1000円の男)
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    不快な表現や、表現不足で忌諱に触れることもあると思いますが、何卒ご容赦下さい。

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    ■2006/10/01(日) お詫び

    仕事に追われているうちに、10月になってしまいました。
    二日も更新をあけてしまい、申し訳ないです。
    一日は、この記事を含めて3本ほど上げようと思います。夜にこの記事を見た人は、お楽しみに。

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    ■2006/10/01(日) ユイ その4

    去ろうとした僕を、何故ユイさんが引きとめたのか。その理由はわからない。腰を下ろしたものの、僕は会話の種を中々見出せずに、少し擦り切れた自分の革靴の先を見つめていた。
    「仕事帰りなの?」
    目の前の売店が片付けの準備をしているのを眺めながら、ユイさんは言った。
    「うん。ちょっと遅くなったんだ。君は、飲み会の帰りかな。」
    「・・・ユイ。」
    僕が会話を繋げるために放ったボールを取らずに、ユイさんは自分の名前を名乗った。膝に頬をつけてこちらを見ているので、僕も名乗ることにする。
    「僕は・・・仙道。」
    少しつまりながら、名乗る。結局、僕には仙道緑の助けが不可欠なのだろう。偽名を使う僕の一瞬の逡巡を見透かすように、ユイさんの視線が僕を突き通した。
    「・・・。」

    軽い自己紹介の後、再び沈黙が訪れる。色々な種類の靴音が川音の様に絶え間なく流れ続けるのを、二人で聞いていた。
    「寒くない?大丈夫?」
    むし暑くさえある外気を感じながら、一応聞いてみる。当然、ユイさんの首は横に振られる。
    「お酒飲んでたんだよね。酔いは抜けた?」
    今度は、黙って頷くユイさんを見て、僕はどうしたものかと思案をめぐらせる。別に沈黙は苦手ではないが、投げっぱなしのキャッチボールは少々疲れる。
    こんな時、普段の僕ならどうしていたのだろう・・・そう考えて、ようやく突破口のような考えが閃いた。
    「ユイさん。」
    振り返る、ユイさん。
    「何か、して欲しいことはある?」
    「・・・え?」
    「何かして欲しいことがあれば、聞いてあげるよ。」
    意味がわからないという表情のユイさんに、僕は言葉を続ける。
    「普段はお金をとってるんだけどね。今日は、そういうつもりで話しかけたんじゃないから、特別にタダでいいよ。」


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    18:22 | トラックバック(0) | コメント(3) | オモイデ | Page Top


    ■2006/10/01(日) レイガイ

    「一日1000円で、僕を買いませんか?」
    肌のどこかで夏の終わりを感じる日、僕はいつもどおりに道行く女性との縁を探していた。
    女性に声をかけては、断られ、また次を探す。機械の様に感情をいれず、それを数回繰り返した時のこと。

    「こんにちは。今日一日・・・」
    と、そこで僕の言葉は途切れた。
    「すいません、なんでもないです。失礼。」
    慌てて言葉を飲み込んで、軽く頭を下げる。

    僕は、ある程度話が通じそうな年齢であれば、声をかける女性の外見は特に選ばない。それは今までずっとそうだったし、今後も変える気はなかった。


    怪訝そうに僕を一瞥して、その女性は足早に通り過ぎていった。
    もし、その女性が僕の妹に似てさえいなければ・・・ 何か、新しいドラマがあったのかもしれない。
    一つだけ、隠れたルールを自分に刻み込んで、僕は雑踏の中へと再び歩き出した。

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    23:47 | トラックバック(0) | コメント(1) | オモイデ | Page Top


    ■2006/10/02(月) ユイ その5

    「何それ・・・ホスト?怪しい人なの?」
    であったときの様に、怪訝そうな目で僕を見るユイさんに、
    「ホストじゃないよ。怪しい人には違いないかもしれないけどね。」
    と言って、僕は静かに、諭すように1000円の男の説明を始めた。

    遠くに聞こえる電車のベルをメトロノームに、数分。ユイさんの質問に答えながら説明を終えるまでには、山手線が数本通り過ぎた。
    「ふーん。」
    退屈だったのだろうか。一部始終を聞き終えたユイさんは、特に表情を変えずに返事をした。
    「大体、わかった?」
    「うん・・・。でも、別にして欲しいことはないよ。」
    「うん、それならそれで、いいよ。元々、色々な話を聞くための口実みたいなものだからね。」
    ほっとしたような、がっかりしたような内心を隠して、僕は頷く。
    「話、聞きたいの?」
    「うん。聞きたいよ。なんで、女の子が一人で道に座っているのか・・・とかね。」
    地面に座りすぎて凝り固まってきた体を捻って、背骨をボキボキと鳴らしながらユイさんの顔色をうかがう。
    「・・・。」
    膝を抱えたままのユイさんは、返事に窮するように顔を沈める。
    「やだ、話したくない。」
    「・・・そう?なら、いいけど。」
    話したくないということは、とりあえず道に座っていた訳は存在するのだろう。気にはなるが、無理に聞き出そうとしても、それは詮無きことだろう。
    「1000円の男って、楽しい?」
    話題をそらすように、ユイさんは僕に質問をしてくる。
    「うん。そうだね。色々な人に会って、色々なことを喋って。人によって頼んでくることも違うし、退屈はしないよ。」
    「そっか・・・。願い事って、どんなことがあった?」
    そう言われて、僕は目を閉じる。鞄に入ったメモ帳を開かなくても、目を閉じて空を向けば、色々な思い出が浮かんでくる。
    「そうだなぁ・・・」
    詳しくはURLを。なんて冗談は勿論言えずに、僕は頭に浮かんだ順から、ユイさんに一つ一つ思い出を分け与えていく。自分でも少し懐かしいエピソードの数々を、ユイさんは真面目に聞いていた。

    「仙道さんは、優しい人なの?」
    ふと、ユイさんが話を区切って聞いてくる。
    「優しい・・・どうかな。女性の言う事を聞いているだけだから、本当に優しいとは言えないと思うよ。」
    「・・・そうなの?」
    「でも、偽善を長く続ければ、結果的に善良なのさ。」
    「・・・そうなの・・・?」
    僕が少し苦く笑いながら黙って頷くと、ユイさんは心なしか寂しそうな表情になる。
    「優しくないとは、いえない・・・かな。仙道さんは。」
    その、なんだか遠回りな言い方にクスリとしつつ、僕は軽く会釈をして答える。

    「・・・私、ね。今日、飲み会で、ね。」
    そう、会話を突然区切るのは、いつもユイさんのほうだ。

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    ■2006/10/04(水) ユイ その6

    突然訪れた好機に緊張しながらも、僕はユイさんに話を促す。
    「大学の、飲み会だったんだけどね。そこで・・・」
    少し言葉を澱ませると、ユイさんは目を瞑って考えてしまった。珈琲に砂糖を溶かすように、自分の気持ちを表現することができる言葉を、胸の中から搾り出しているのだろう。
    「・・・いやなことが、あったの。それだけ。」
    結局、そこでユイさんは言葉を諦めてしまった。不完全燃焼のまま、ユイさんの瞳を見る。もう、それ以上話す気は、ないようだ。

    「そう・・・。その気持ちが、まだ残ってるんだ。」
    「うん。」
    ユイさんが家にも帰らずに、道の途中で力尽きて座り込んでしまった出来事。気にならないといえば、もちろん嘘になる。そして、その話を更に尋ねてもいいのだろうか、尋ねるべきことなのだろうか。・・・僕にはよくわからなかった。ただ、少しユイさんが疲れた表情だったのが、好奇心で浮き足立っていた僕の口を、ずっしりと重くさせた。

    まさにかける言葉がないという状況で、僕はユイさんの頭に手を伸ばし・・・そっと影を沿えるように、手の平を置いた。柔らかい髪の下から、少しずつ体温が伝わってくる。
    「別に、平気だけどさ。ありがと。」
    そっけなくそう言うと、ユイさんは再びゆっくりと目を閉じた。
    「今のは、1000円?」
    ユイさんのそんな冗談に軽く頭を振って、僕は二回だけ、ゆっくりと頭をトントンと叩いた。

    ふと、ユイさんの頭から自分の元へ戻した右手が、昔から使い続けている腕時計に触れる。時間を確認するユイさんに仕草を気付かれないよう、それとなく駅の方にある電光掲示板を見ると、時計の短針は予想していた以上に進んでいた。楽しいかどうかは別として、ユイさんとの間の大部分を占めた沈黙は決して苦痛でなく、時を長くすることも無かったようだ。

    「電車は、大丈夫かい?」
    僕が低い声で静かに尋ねると、ユイさんは思い出したように自分の携帯を取り出し、一瞬だけディスプレイを光らせた。
    「それ、ナンパの計画立ててるんでしょう。」
    そう言って、なんだか申し訳なさそうに笑顔をつくるユイさんの冗談は、なんだか作り物っぽくて、僕も同じように少し芝居がかった返事しかできなかった。
    「ちゃんと心配した、真面目な話なんだけどなー。」
    「うん・・・。ありがと。」
    やはり、寂しそうに笑うと、ユイさんは僕に手を差し出した。
    「足が痺れちゃったから、手を貸してくれる?」
    僕は、その言葉に頷いて立ち上がると、改めてユイさんへと手を差し伸べる。


    次回、結末です。モチベーションの為に、クリックかコメントをしていただけると嬉しいです。
      



    23:55 | トラックバック(0) | コメント(2) | オモイデ | Page Top


    ■2006/10/06(金) ユイ その7

    足が痺れたと小さく言ったユイさんは、少し躊躇しながら僕の手を握り、もう片方の手を地に着けて片方の足を伸ばして、立ち上がろうとした。
    その時、僕はやっと理解をした。一時的な怪我か、先天的なものかはわからないが、ユイさんは足が少し悪いのだ。ジーンズから覗くくるぶしにはギブスのようなものは見えなかったが、体重からかばうような動作が、どこの負担を避けているかを浮き彫りにしていた。
    僕の不躾な視線に気付いたのだろう、ユイさんは僕の顔を見るのを避けるように、うつむきながら立ち上がった。 
    「全然、気付かなかったよ。なにか不快な思いをさせてたら、ごめんね。」
    肩を抱きながら言った僕の言葉をかき消すように、ユイさんは頭を振った。

    「いいの。慣れてるから。変なものは変だものね。」
    その台詞から、足への障害は長いものなのだと知る。正しい言葉を捜そうという気持ちすら、もう間違いなのかもしれない。僕は目を瞑って、ユイさんの頭に触れることが精一杯だった。大人が、頑張った子供を撫でるように、僕からユイさんへ少しでも送ることのできるエールのつもりで、頭を撫で続ける。
    「今日、飲み会があって・・・好きな人がいたんだけどね。」
    何か相談に乗れるかもしれない。そんな気持ちで、さっきまで僕が聞いていた話の続きだろう。ユイさんは相変わらず目を合わせずに語り始めた。
    「乾杯の時に・・・上手に立てなくて。そうしたら・・・。」
    段々とか細くなっていくユイさんのエピソードを、僕はそれ以上聞けなかった。腰を抱いて両手で締め付けるようにゆっくりとユイさんの体を抱きとめると、「はぁ」と、僕のスーツに湿った吐息が吹きかけられた。
    「うん、可愛そうに。大変だったね。」
    なるべく多くの言葉をユイさんの耳に入れたくて、思いつくままの言葉を語りかける。さっきまで気丈に振舞っていたユイさんは、抱きしめてみると驚くほど小さく、細い肩を震わせる女の子だった。

    「周りの人は大丈夫って言って・・・たけど・・・。」
    「やっぱり・・・やだ・・・よう・・・。」
    振り絞るようにそう言い終わった途端、堰を切ったようにユイさんの喉から嗚咽が漏れ出した。
    自分のしていること。何かを出来るのではないかと、思ったこと。それが正しかったのか、余計にユイさんの気持ちをかき乱しただけではないのか。それを「後で考えること」に刻んだ僕は、体重を預けてくるユイさんを心配させまいと、少しだけ足を開いて半身になり、ユイさんから少しでも体を離さないことにだけに専念をした。

    ユイさんが泣き続けていたのは5分ほどだろうか?ユイさんの脇の下に手を通して、僕はユイさんの(物理的な)支えになることにのみ専念をした。はたから見た人には、僕達は甘いダンスを踊っているかのようにも見えたかもしれない。
    「ありがとう。」
    少しだけ咳をしたユイさんは、自分の胸に手をあて、振動を収めるように深呼吸して、言った。
    「かえって・・・辛い思いをさせちゃったみたい。」
    そう、僕が言うと、もう一度ユイさんは顔を歪ませる。
    「やめて、そんな風に、思わないで。ますます・・・悲しくなっちゃう。」
    「うん・・・。わかった。」
    まわした腕で背中をポンポンと叩くと、ユイさんはそれを合図にしたかのように体を離した。
    「こんなこと、友達にも話せないし。スッキリしたよ。」
    そう笑いながら、目尻から涙が零れた。既に出来た涙の痕を這うように零れる涙を、僕が人差し指ですくおうとするのを、ユイさんの手がそっと止めた。
    「お願いが、あるの。聞いてくれる・・・?」
    「うん、もちろん。」
    「これから、私は改札を通って、家に帰ろうと思います。」
    固い意志を表明するように、ユイさんは少し強い口調で話した。
    「うん。」
    僕は、ただ、頷く。
    「それでね、私、歩き方もちょっと変だから・・・仙道さんは、私が帰る間、後ろを見ていて欲しいの。」
    「・・・うん。」
    「だから、さっきのは足が痺れただけで、私は・・・普通の女の子ってことに、して。」
    「・・・。」
    僕の困ったような目を見て、ユイさんは笑う。
    「わかってる。そんなこと言っても、なんにもならないよね。でも、お願い・・・。」
    「うん・・・わかった。」
    僕がもう一度頷くと、ユイさんは「それじゃ・・・」と言って、僕の体を回すように、腕に力を入れた。それを手伝うように回れ右をした僕は、何も考えられない頭の中で、空を見上げながら、彼女の為になることを探していた。

    背後へ集中した聴覚が、鞄を持ち上げるような音を拾うと、「あっ」という声がした。
    その刹那に、中身が入ったペットボトルが床に落ちる音がする。出会った時に僕が買った、お茶のボトルだろう。

    彼女が座っていたのは、酔いの為ではない。だから、もうお茶は必要ないはずだ。それでも、ユイさんは無言のままで、そのペットボトルを拾おうとした。ペットボトルを床に落としてから拾うまで、何秒か、何十秒か、数分か。もう、なにもかもが僕にはわからなかった。

    振り返って声をかけられない。彼女が言い出したこととはいえ、そのもどかしい時間は、あまりにも悲しく長かった。黒くくすんだ空が、日の終わりを告げていることだけが、僕の目に入っていた。

    あの時、背中越しに、何かを言えたのなら・・・。
    その一言を言うために1000円の男をやっているのに、僕はまだ、その言葉を見つけられずにいる。

    さようなら、ユイさん。愛や絆で、あなたの心が軽やかになりますように。

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    01:26 | トラックバック(0) | コメント(6) | オモイデ | Page Top


    ■2006/10/07(土) 漫画喫茶から

    コメントを見るためだけにログインしてみました。
    隣には今日声をかけた女性が寝息を立てています。
    彼女が目を覚ましたらどうしようと思いつつも、ご挨拶を。

    この話は、またいつか。

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    02:03 | トラックバック(0) | コメント(7) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/10/08(日) アイノチガイ

    先日、何気なくコンビニで雑誌コーナーの前に立った時のこと。
    僕は、これも1000円の男の勉強になるかな・・・と、普段は存在を意識しない女性雑誌コーナーを眺めていた。
    世代やファッションの系統によって様々なジャンルに分けられた雑誌たちは、どこか誇らしげに店内の一角を占めている。僕は少し照れながらも、一つ一つの雑誌の表紙を見比べて、巻頭特集を見ていたりすると、
    「愛される~になる・・・テクニック」
    という見出しが目に入った。
    それは髪だったり、性格だったり、ファッションだったりするのだが、僕が見た限りでは、女性誌の見出しにあるのは「愛される」とか「人気の」ばかりで、どこか受動的なタイトルばかりだった。女性誌にだって、「愛し方」特集があってもいいと思うのだが・・・その日たまたま見当たらなかっただけなのだろうか?


    ちなみに、少し気になって男性ファッション雑誌を見たのだが、男性用雑誌には、「モテる」はあっても、「愛される」や「愛し方」は存在しなかった。世間の男性は、「愛される」も「愛する」も、少し照れくさいのだろうか?
    男性雑誌と女性雑誌の、愛の違いが少し気になった日でした。

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    23:11 | トラックバック(0) | コメント(5) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/10/09(月) ナツミ

    季節の定義とは、女性の服装で決まるのではないか。一週間ぶりの週末は、長袖の服が街を彩りはじめていた。
    その日僕が声をかけたナツミさんも、秋物のコーディネイトに合わせたハンティング帽から覗く目がかわいい、女性だった。
    「・・・というわけで、犯罪や無理なこと以外は、言うことを聞いてあげるよ。」
    ルールの説明が終わった僕を、ナツミさんは不思議そうに見つめる。
    「でも、わたしの好きな事をして、あなた・・・」
    「仙道、だよ。」
    「仙道さんは、楽しいの?それで。Mとか、そういう人?」
    率直な言葉に思わず笑みがこぼれながらも、僕は首を振る。
    「多分、Mじゃないよ。別にいつも無理難題を押し付けられるわけじゃないから、それなりに楽しいし。」
    「ふーん・・・。でも、私は普通の人だよ?楽しいの?」
    「楽しいよ。知らない人と話すのは緊張するけど、色々な話を聞いたりするのは、本当に楽しい。」
    「そんなもんなの・・・ひょっとして、仙道さんってモテないの?」
    「ははは・・・。もてるほうじゃ、ないかな。確かに。」
    率直な・・・というよりは、歯に衣着せぬ物言いを楽しみながら、僕は喫茶店を指差した。
    「まぁ、興味がでてきたなら、お茶でもしながら話しませんか。もしかしたら、あなた・・・」
    「ナツミ。」
    「ナツミさんのして欲しいことも、見つかるかもしれない。どうだい?」
    女の子にしては珍しく、思った事をそのまま口に出すナツミさんに、少し僕は興味が沸いてきた。


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    ■2006/10/10(火) ナツミ その2

    見ているだけで目が覚めるような色のグレープフルーツジュースを飲みながら、ナツミさんは僕を見続ける。
    「ねぇ。」
    「ん?なんだい。」
    僕がカフェオレにガムシロップを入れ終えたのを見計らって、ナツミさんが話しかけてきた。
    「なんか、話してよ。」
    そう言うと、ナツミさんは帽子の位置を確認するように頭を触って、ソファに背を預けた。
    「話?話か・・・。帽子、似合うね。」
    促されて、僕は目に写った事をそのまま口に出してみた。本来なら失敗が怖くて、こんな褒め言葉はあまり言わないのだが・・・今日は、素直なナツミさんに合わせて、素直な発言をしてみた。
    「そう、ありがとう。」
    大して嬉しくもなさそうに、ナツミさんは返事をして帽子の鍔をつまむ。
    「これ、美容室に行ったら、前髪を切られすぎちゃっただけなんだけどね。」
    「へぇ、そうなの?ちょっと、見せてよ。」
    僕が言うと、少し考えて、ナツミさんは素直に帽子を取ってくれた。ベリーショートの金髪が、燃え上がるように帽子の中から突き上げている。
    「はい、終わり!」
    僕がコメントを考えている1,2秒ほどの間で、金の草原は再び蓋をされてしまった。ナツミさんは、被った帽子を念入りに整えている。
    「似合ってるよ。君のイメージ通りな気がするけど。」
    「えー、やだよ。切りすぎたんだよ。これでいいですか?って、鏡を見せられたとき、美容師さんに「切りすぎです」って言ってやったもん。」
    そう言って、またナツミさんは帽子をいじりはじめた。どうやら、帽子に慣れていないところをみると、髪を切りすぎたのは最近のことのようだ。
    「へー。美容師さんにそういわれて、文句言う人ははじめて見たかもしれない。で、美容師さんはなんて言ってた?」
    「えっと、「もう少し早く言っていただければ・・・」かな。」
    その状況を思い出したのか、ナツミさんはグラスの中身を不機嫌そうにかき混ぜて言った。
    「まぁ、その人の言うことも、もっともだと思うけど。」
    クスクスと笑いながら、僕はふくれ面のナツミさんとの会話を楽しむ。
    「でも、ちゃんと本を指差して言ったのに・・・。もう、あんなところ二度といかねー!クラスの子にも笑われちゃったし。」
    少々口は悪いが、思った事をそのまま出しているだけで、僕から見ればよっぽど可愛げがある。
    「でも、髪の色に長さが合ってるよ。そういうスタイルとして不自然じゃないと思うけど。」
    「これは、短くしすぎたから染めたの!昨日!」
    ナツミさんが友達と話す時もこんな感じなのだろうなと思いながら、僕はナツミさんの話に、はいはいと頷く。もしかすると、男の兄弟がいるのかもしれない。そう思うくらい、ナツミさんは気風がよかった。

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    23:35 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/10/11(水) ナツミ その3

    「ねぇ、なんでこんなことはじめようと思ったの?」

    1000円の男に宿命の様に付きまとう、この聞きなれた質問を、ナツミさんは目を輝かせて聞いてきた。僕としては、適当にはぐらかしても、過去を一から話して丁寧に答えてもよかったのだが、その時は胸の内に適当なホラの種が無かったので、素直に答えを言ってみあ。
    「別に、こうしなきゃいけないという強い意志はないんだけどね。ただ、休みの日に家から出て、何をしよう?と思った時に、他にすることが思いつかないだけだよ。」
    「へぇ・・・。仙道さんって、友達いないの?」
    相変わらず、ナツミさんの言葉は切れ味が鋭かったが、僕は段々とそれが気にならなくなってきた。直球で、悪気がないとわかっているので、その分話が早くてすむ。
    「まぁ、いないことはないけど、あんまり多くはないよ。」
    「うんうん。いるんじゃない。その人とは遊ばないの?」

    ・・・僕は、とどこかへ外出する自分を思い浮かべてみた。彼と待ち合わせをして、どこかへ行くとしたら・・・と、今まで考えたことも無かった仮定をめぐらせてみたのだが、浮かんでくるのはバーや飲み屋ばかりで、晴天の下で僕達二人がどこかを目指す姿は、全く浮かんでこなかった。
    「そうだね。彼と遊ぶという発想はなかったな。忙しいのか忙しくないのかわからない奴だから、呼べば来るような気もするし、面倒くさがって出てこないような気もする。よくわからないや。」
    「・・・その人からは誘ってこないの?」
    「うん。時々、飲むくらいだね。僕はあんまりアルコール飲めないけど。」

    「変な友達だね。」
    すっぱりと断言したナツミさんに、僕は心から頷く。
    「うん。今まで気付かなかったけど、変な関係かもしれない。僕達は。」
    「関係っていうか、二人とも変なんだろうけどね、多分。」
    それもそうかと、中空を見つめながら言い返せないでいる僕を見て、ナツミさんは面白そうに微笑んだ。
    「ねぇ、仙道さん。」
    「ん?」
    「私、して欲しいこと見つかったかも。」
    ハンティング帽の影から、ネズミを見つけたネコのような瞳が、僕を捉えている。

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    23:30 | トラックバック(0) | コメント(3) | オモイデ | Page Top


    ■2006/10/12(木) スナ

    河の音の様に止むことのない喧騒の中で、自分の靴音を探しながら繁華街を歩いていると、茶色い髪の男性が声をかけてきた。
    「どうですか、お安くしておきますよ?」
    具体的な店の名前も、なんの店かも言わずに、手に持ったメニューのようなものを機械的に見せてくる。形だけの笑顔は、逆に彼等の疲れを醸し出している。
    今まで、彼等の話を聞くために立ち止まったことも、その紙をまじまじと見たこともないのだが、1000円の男をはじめてから、あまり彼らを無碍に扱えなくなった自分がいる。彼らから声のかけ方を勉強しよう・・・とかまでは思わないが、何も言わずに一礼くらいは、するようになった。
    もっとも、声を出したり、作り笑顔を見せたりと、何かリアクションを見せると、客引きは脈が有ると判断して、しつこく付きまとってくるので、無視はしないという程度のものだが。

    昼がそのまま残ったような熱帯夜も、木枯らし吹きすさぶ枯葉の季節も、黒服の男と、シルエットを見せ付ける女は、夜を惜しむように街中に立ち続ける。
    僕のは人には言えないような趣味で、彼等はそれが業務。そんな小さな違いはあるのだが、忘れてしまいそうな淡い光で街を照らす月からは、僕らはきっと似たような砂粒なのだろう。
    細かくなったガラスの破片が、海岸の中で一番綺麗に光っていたような・・・そんなことを思い出しながら、今日も僕は彼等と言葉を交わすことなく、家路を急いだ。

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    ■2006/10/14(土) ナツミ その4

    僕はテーブルに肘を付いて、ナツミさんの笑顔を見ながら、彼女の言葉を待っていた。
    誕生日プレゼントを誰かに渡すのが嬉しくてしょうがない子供の様に、口元を綻ばせるナツミさんの顔を見れただけでも、今日声をかけた甲斐があった。そう思いながら、僕はナツミさんの言葉を促す。
    「で、なにをしてほしいんだい?部屋の模様替えでも、しゃぶしゃぶのアク取りでも、なんでもするよ。」
    「そんな重いことでも、熱いことでもないよ。簡単なこと。これから私の友達に電話をして、友達になってよ。」
    得意満面な笑みを浮かべるナツミさんの顔を目に焼き付けると、僕はまぶたを閉じてあごを触った。最近自覚した、僕が考え事をするときの癖だ。
    「うーん。」
    「どう?仙道さんに友達を増やそう計画。ダメ?」
    「ダメ・・・じゃ、ないんだけどね。電話番号とか連絡先は、基本的に教えないようにしてるんだ。」
    ナツミさんのご機嫌が傾かないかと心配しながら、恐る恐るそう告げる。
    「それじゃ、私の携帯を使ってもいいからさ。かけようよ。イヤ?」
    濡れたグラスを脇に置き、ナツミさんは食い入るように僕を見つめた。言葉の最後が疑問系で終わって、返答から逃げられないように、なっている。彼女がそこまで推す理由がよくわからなかったが、どうやらナツミさんは真剣に考えているらしい。
    「確かに君が思っているように、僕は友達がそう多いほうではないよ。でも、それで困っているわけじゃ、ないんだよ。」
    僕の言葉を、ナツミさんはさも意外そうに受け取って、言葉を返した。

    「どうして?きっと、楽しいことがあるのよ?確かに私の友達が皆楽しい人じゃないけれど、今から電話する子は明るくて、とてもいい子なのよ。」
    「あなたが言うのなら、きっとそうなのでしょう。ただ、僕はずっとこういう生き方で、このまま生きていこうという覚悟も、出来ているんだよ。」

    わからないと言うように首を振って、ナツミさんは僕の目を見ながら、突き刺すように言葉を唱えた。
    「でも、あなたは退屈を凌ぎたくて、こういうことをしているんでしょう?」
    ・・・確かに、その通りだ。嫌なことから遠回りするためだけに本来の目的を失っていた自分に気付いて、僕は再びザラつくあごを撫でる。少し混乱はしていたが、彼女の言うことには理がある。そして、僕は悩んだ時は理を取る生き方をしている。少し深く息を吐いて、頷いた。
    「そうだね、あなたの言うとおりだね。その人とお友達になれるかはわからないけれど、電話をしてみようか。」
    「いいの?なんだか、意外。自分の意見を曲げない人だと、思ってた。」
    そう言いながら、ナツミさんは口を隠して、さぞ意外そうな顔をした。
    「そう?ガンコそうに見えるのかな?」
    「うーん、うん。まぁね。」

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    ■2006/10/15(日) ナツミ その5

    「もしもし、アスカ?」
    電話越しに聞こえるアスカと呼ばれた女性の声と、ナツミさんの声が絡みあうのを、僕は所在なく眺めていた。
    「ちょっと、今友達といるんだけど、ちょっとナツミと話したいみたいだから、代わるね。」
    嘘も方便とはいえ、いきなり携帯を渡された僕はとまどいながら、電話に出る。社用の連絡以外で、プライベートな電話に出るのは久しぶりだった。確かに、僕には友達がいないのだと、痛感しながら声を出す。

    「もしもし。」
    「もしもし、こんにちは。どちら様ですか?」
    「ナツミさんの友達の、仙道です。はじめまして。」
    少し照れながら、飯事のような会話をする。ナツミさんの期待に満ちた視線を感じながら、僕は少し戸惑い気味に話題を探す。
    実際に近くにいれば、目線を追ったり、天井の模様を見たりして、会話の種位はいくらでも見つかるのだが、電話は声しか情報が入らない。そして、仕事の電話と違って定型文がない。つまるところ、僕は私用の電話が少し苦手だった。
    「えっと・・・ナツミさんとは、どういう友達なんですか?」
    そんなことを聞いてどうすると思いながらも、苦し紛れに会話を続ける。
    「えっとですね、ナツミちゃんとは、幼稚園からの友達です。」
    しっとりと、礼儀正しく答えてくるアスカさんのイメージを思い浮かべながら、僕はナツミさんを見る。ナツミさんが、「ちゃん」だった頃からの付き合いだというアスカさんは、おっとりとした、ソフトな印象を受ける声だった。
    「幼稚園からですか。長いんですね。」
    おざなりの返事に、心なしかナツミさんの目が冷たい。そういえば、この電話は「友達になる」という目的で話しているのだった。
    (やっぱり、いきなり友達っていうのは、無理かもしれない。)
    受話口側を手で抑えて、僕は小声でナツミさんに話しかける。
    (いいから、もう少しはなしてよ)
    容赦のない命令を突きつけられて、僕はやむをえず会話を続ける。
    「えっと・・・もしもし。」
    「もしもし。ひょっとして、ナツミちゃんに電話させられちゃったり、してるの?」
    天恵とは、このことだろう。この会話が聞こえていないナツミさんを見ながら、僕はどう答えるかを思案した。


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    ■2006/10/16(月) ナツミ その6

    さて、アスカさんの質問に僕はどう答えたものなのだろう。疑惑色の眼鏡でこちらを伺うナツミさんを見て、僕は嘘はつきとおせないなと、観念した。後は、アスカさんが何かを察してくれるのを願うのみだ。
    「まぁ、そうなんです。ひょっとして、よくあることなんですか?」
    「そうなんです。困ったものですね。」
    「ええ・・・。」
    口では困ったと言っても、アスカさんの声はマイペースだった。突然知らない男性と話すことになっても、動じないのは懐が深いのか、場慣れをしているのか。
    「ナツミちゃんとは、どんなお友達なんですか?」
    アスカさんにそう聞かれて、僕は返答に詰まる。果たして、電話の先の子にありのまま起こった事を話していいのだろうか?
    「えーと、ちょっと待ってね。」
    そう言って、僕が受話口を手で押さえると、ナツミさんがすかさず突っ込みを入れてくる。

    (なに、どうしたの?)
    (どんな友達かって、聞いてるよ。どう答えればいいんだい。)
    そう、小声で話す姿は、少し友達っぽかったのかもしれない。
    (いいじゃない、素直にそのまま答えればいいのよ。)
    (OK、それならいいんだ。)

    「もしもし。」
    「もしもし。」
    僕の声が聞こえるまで待っていたのだろうか。僕が話しかけたすぐ後に、ゆっくりとした声が電話ごしに聞こえてきた。
    「ええと、ナツミさんとは今日が初対面です。今日、街中で声をかけて、今喫茶店にいるところなんです。」
    「そうなんですか。仲良くしてあげてくださいね。」
    「うん、そうします。ナツミさんからは、アスカさんの友達になるように言われたんだけどね。」
    「わたしと、友達ですか?」
    「はい。」
    無意識の所業だろうか。アスカさんは、僕の台詞を繰り返して言う癖があるようだ。おかげで、自然となぞるような会話が多くなる。
    「そうですね、いいですよ。仲良くしてくださいね。」
    その答えに、心なしかほっとしている自分に気付いた。こんな茶番のような会話でも、僕はどこかで断られたらどうしようと恐れていたのだろうか。ちっぽけな自分の心を自分で見透かして、苦笑をする。
    ともあれ、無事お友達になるという儀式は済んだのだろう。親指と人差し指で、OKマークを作って、ナツミさんに見せると、腕を伸ばしてきたナツミさんと、電話を代わった。
    「というわけで、アスカ、明日の日曜日は空いてる?」

    ん?

    会話の流れに違和感を覚えた僕は、カフェオレのグラスから目を離して、ナツミさんを見る。
    ナツミさんは、ハンチング帽子のつばを下げて目線を合わせないように、笑っていた。


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    ■2006/10/17(火) ナツミ その7

    「うん・・・うん。いいのよ。大丈夫。じゃ、明日ね。」
    アスカさんの常識が紡いだ意見が、ナツミさんの大丈夫という言葉で葬られたような、そんな気がする。
    電源を切って、液晶に表示される通話時間を見た後、ナツミさんは帽子の位置を直して、僕に向き直った。

    「大体、わかったでしょ?仙道さんには、折角友達になったアスカと、実際に会って遊んでもらいます。」
    ナツミさんは、海賊の様に颯爽と要求を表明して、ソファに深く腰をかけた。
    「1000円の男はアポイントを取らないようにしているんだけど・・・。」(ルール参照。)
    「あら、そうなの?聞いてないわよ。」
    確かに、アポイントを取らないというルールは、説明していなかった。あのルールはそもそもHPを見た人の為に作ったもので、まさか出会った早々に、次の日の約束をするような人が現れるとは、思っていなかったのだ。
    「悔しかったら、ルールをちゃんと説明することね。」
    「うん、そうするよ・・・。」
    冷静な正論を破るほど、僕は根拠のない若さを持ち合わせてはいない。過去、別れ際に連絡先を聞かれて断った幾人もの女性達に申し訳ない気持ちになりつつも、僕は頷くしかなかった。
    「じゃあ、明日、ここの駅の改札口に10時ね。」
    とんとん拍子で進む話を、僕は途中で崩してしまったドミノのように、呆然と見守るしかなかった。
    「僕がくると、信じているの?携帯の番号も教えていないのに。」
    「当たり前でしょ。信じているわ。まぁ、仙道さんがこなかったら、私はアスカと遊ぶだけだから、そんなに痛手じゃないんだけど。」

    ・・・今日は、僕の完敗のようだ。これを引き際として、諦めよう。
    こうして、1000円の男としてはじめて、僕は次の日の約束をすることになった。

    その後すぐに、ナツミさんは町に来たそもそもの目的であるという、専門書を買うために街中へと消えていった。僕は、「ルールを書き換える」と、手帳にメモを残して、一つため息をついた。
    明日は、果たして長い日なのだろうか。

    さようなら、ナツミさん。また、明日。
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    ■2006/10/18(水) テスト

    FC2blogの記事が、タイマー公開出来るようになったということですので、試しに新しい記事が19日の正午にUPされるように設定してみました。

    もし、成功したら、今後は決まって正午にUPするようにしようかな?と考えています。
    寝ぼけながら文章を推敲していて、
    「今日UPしなきゃいけないのに、もう後10分しかない!」
    なんて事で焦ることが、しばしばあるので・・・。

    もしお暇でしたら、普段はあまり記事がUPされないお昼時に、もう一度、見に来てください。

    仙道

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    ■2006/10/19(木) ヤクソク

    その日にあった事を一つ一つ反復して、固まった心を少しずつ溶かしていきながら、僕はシャワーを浴びていた。

    「じゃあ、明日、ここの駅の改札口に10時ね。」

    そんな、『約束』。人を信じることが出来るから言える、どこか懐かしい単語が、頭から離れなかった。
    前髪の先から零れ落ちる水滴が、過去の情景を刹那映しては、湯気となって換気扇へと消えてく。


    子供のころ、近所に野良猫が住み着いていた。
    家で動物を飼えなかった僕は、母親の目を盗んでは、ちょくちょくと台所から何か食べ物になるものを探して、与えていた。

    人に飼われた事がないのだろう。華奢な体の中に、針金のような神経を張り巡らせて、警戒を怠らない猫だったが、比較的彼が若い時から食事をあげていた僕からは、手から食事を摂ったりすることがあった。
    最初の頃は物珍しさから、食事をするところを見るだけで良かったが、いつしか欲が出始めて、少しずつ背中を撫ぜたり、耳の先が回るのを何度も試したりするようになった。

    体に少し触れるだけなら、我慢をしていたその猫も、僕に抱き上げられるのは嫌だったらしく、そんな時はまず手に食べ物があることを見せてから、近づいたところを抱き上げたりしていた。

    ・・・そんなことを繰り返しているうちに、いつしか、僕がその猫を触っていいのは、何か食べ物を持ってきたときだけになってしまっていた。
    僕が手に何かを持っているかをその猫はいつも目ざとく見極めて、食べ物を持っていない時はつまらなそうに一瞥をして、垣根の向こうへと消えていってしまう。元々、自由気ままに生きていたのだ。用がなければ、子供にかまける気はなかったのだろう。

    猫に触りたければ、食べ物を持ってくる。それが、猫との約束。

    子供心に、都合よくそんな勝手なことを考えていたのだが、今考えてみればあれはただの約束ではなく、見返りを求める契約だった。それでもあの猫は、ふといなくなったことに気付いた冬の日までは、忠実に契約を守っていただけ、僕をはじめとした人間よりマシなのだろう。

    明日、ナツミさんは、約束どおり現れるのだろうか。会ったこともない友達のアスカさんは、どんな人なのだろう。
    少し伸びてきた髪の毛を後ろへ流して、僕はシャワーの蛇口を閉めた。換気扇が吸い上げた湯気は、そろそろ夜空に届き始めた頃だろうか。

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    ■2006/10/21(土) アスカ

    少し眠気の残る顔でドアの横に置いてある鏡を見て、髭の剃り残しが無い事を確認して、僕は部屋のドアをあけた。
    休日にしか履かない、お気に入りのスニーカーのつま先でアスファルトをノックして、靴べらも使わずに踵を滑り込ませると、ドアの鍵を締める。
    仕事のない日は基本的に荷物を持たずに出かけるのが好きなので、その日も僕はジャケットに財布と携帯だけを入れて、家を出た。
    金木犀がいそいそと秋の準備をしている街道を、ぼんやりと歩きながら地元の駅に向かい、使い慣れた定期を取り出して、いつもの駅員さんに会釈をする。休日の少し遅い朝、いつもの駅は静かに電車を待っていた。

    約束の時間より少し早めにつくも、待ち合わせ場所には他に人もおらず、駅の一角にある待ち合わせスポットは、周りの人ごみと少しアンバランスに、閑散としていた。
    携帯がないので連絡しようがないのだが、ナツミさんが約束をすっぽかすとは思えない。とりあえず時間まで待つことにしよう・・・そう思って、レンガの壁に寄りかかったときだった。
    「あれ、はやいじゃん。」
    聞き覚えのある声の方を見ると、昨日のハンチング帽とは違う、ニット帽を被ったナツミさんがポケットに手を入れて立っていた。その腕を恋人の様に抱えて隣に立っている子が、件のアスカさんなのだろう。
    アスカさんと僕がお互いに軽く会釈をし終わると、なんともいえない不思議な沈黙が、三人の間に訪れた。


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    ■2006/10/23(月) アスカ その2

    男子校を言い訳にして無機質で無粋な人生を送ってきた僕には、女性の服をうまく語るのは難しい。ただ、一枚の絵の様にコーディネイトされたアスカさんの姿は、両親の愛情の賜物であろう、隠しても隠し切れない育ちのよさと、洗練された雰囲気をかもし出していた。
    ナツミさんはといえば、そんなアスカさんを見つめる僕を、どうだと言わんばかりに誇らしげに見つめている。
    「アスカ、この人が昨日言ってた、仙道さん。」
    改めてぺこりとお辞儀をするアスカさんに、僕もあわてて礼を返す。
    「仙道さん、アスカにルールの説明をしてあげてよ。」
    「そうだね、とりあえず喫茶店にでも入りますか?」
    と、場を取り仕切るナツミさんの言葉に頷いて答えると、
    「喫茶店好きだね、仙道さん。」
    といってナツミさんが笑った。他に適切な場所を知らないだけで、特に喫茶店が好きというわけではないのだが、それで会話の種になるのならと、僕も笑って頷く。
    「私が大雑把に説明したから、大体はわかってると思うけど、一応仙道さんからも話をしてあげてよ。」
    そう言って、ナツミさんは喫茶店へと歩き出した。アスカさんは僕の方をチラリと見てナツミさんに続く。それを見て、僕も後を追う。

    「まず、今日はアスカさんが僕を買うということで、いいのかな。」
    僕を買う。その言葉の重さに少し自分で驚きながら、僕は切り出した。
    「え、二人同時じゃダメなの?」
    少し驚いたように、ナツミさんが言う。
    「別にかまわないけど、一人がお金を出して、二人で相談すれば同じことじゃない?それに、二人同時に違うことを言われたら、どっちの言う事を聞けばいいのかわからないし。」
    そうね・・・と呟くナツミさんの隣で、アスカさんが今日初めて口を開く。
    「じゃ、昨日はナツミちゃんがお金払ったから、今日は私が出すね。」
    そう言って、にこやかに笑顔を見せる。

    はたから聞くと、どんな会話に思われるのだろう。そう思ったものの、冷静に考えると僕は今まで顧客に恵まれて(?)いただけで、実際には誤解をされてもしょうがない・・・というより、誤解でもなんでもないことをしているのだ。
    「そう?じゃ、ちゃんと元を取るのよ?」
    そう言って、ナツミさんは白い歯を見せる。アスカさんも、少しはにかみながら頷く。その表情は、少なくともネガティブなものではない。
    どうやら、今日のお客は、少々手ごわいようだ。

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    ■2006/10/24(火) アスカ その3

    「今日一日、千円であなたの望む事をなんでもします。ただし、その間にかかった経費は、あなた持ちになります。」
    僕は、1000円の男のルールを、アスカさんの為に読み上げていた。ナツミさんのときの様に、漏れが無いようにと、今日は普段は使わないメモ帳を使う気の入れようだ。
    「そうそう、この前も気になっていたんだけど、ある意味ナンパみたいなものなのに、仙道さんの奢りじゃないの?」
    大人しくしているのが苦手といった感じでそわそわしていたナツミさんが、ルールの途中で口を挟んできた。
    「別に、それでもいいんだけどね。例えば1000円払うから、10万円のホテルに泊まってみたいとか言われたら、ちょっと悲しいと思わない?」
    「ああ、そういうコトか。」
    納得したように、頷いて、ナツミさんが引き下がる。一方、アスカさんは無言のまま頷いて僕の言葉の続きを待っていた。

    「次に、期間は基本的に終電か、そちらが終わりにしたいと言った時です。」
    「基本的に?」
    ここでも、言葉を挟むのはアスカさんではなく、ナツミさんだ。
    「まぁ、終電を逃したことが、過去にあったから。一応、基本的にってことで。」
    少し咳払いをして、
    「出張はしません。次の日の予約とかも、できません。携帯の番号やメールアドレスも教えることが出来ないので、今日限りだと思ってください。今回、ナツミさんと再び会ったのは、僕の中で例外なのです。」
    そう言うと、ナツミさんはニヤリと笑って、帽子に手をかけた。
    「なんか、例外とか基本的にとか、多くない?」
    鋭い視線が、痛いところを突く。今日も、ナツミさんの口舌は冴え渡っているようだ。
    「確かに・・・。あまり練らないで考えたルールだからね。何か、いいアイディアがあればご教授願います。」
    僕は、素直に白旗をあげて頭を下げる。

    「あの・・・」
    僕が顔をあげた時、最初に口を開いたのはアスカさんだった。
    「一応、昨日ナツミちゃんに話を聞いた後、して欲しいことのリストを作ってきたんですけど。」
    そう言って、アスカさんは鞄の中から手帳を取り出した。僕の使っている無愛想な無地のノートではなく、綺麗に色分けされた手帳の1ページには、箇条書きでなにやら細かく書かれていた。
    そこで、僕はある事実に気付く。アスカさんは、あらかじめ予備知識を持って1000円の男に挑む、初めての女性なのだ。几帳面に書かれたメモに、なにやら執念めいたものを感じて、僕は少し背筋が寒くなった。

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    ■2006/10/25(水) チアキ

    1000円の男という名前のblogをやっている僕ですが、1000円の男で出会った全ての女性を紹介しきれているわけではありません。食事をしただけで別れたり、突然帰ってしまったりと、blogの記事としてまとめづらい話が、いくつか端切れのように残っています。

    この会話も、そんなある女性との一コマ。短いですが、チアキさんの名前を借りて、紹介します。

    時計の代わりに机に置いた携帯のライトが虹色に光るのを、僕とチアキさんは同時に気付いた。
    「出なくていいの?」
    僕を試すように、チアキさんは微笑を浮かべる。
    「いや、いいんです。仕事とか知り合いのメールなら振動するようにしているから、これは迷惑メールなんだと思う。」
    バカ正直に答えた後で、僕はもう少し言い方があったかな?とも思う。
    「そういえば、私、出会い系のサクラをやったことあるのよ。」
    少し誇らしげにそう言い出したチアキさんは、自分の携帯をチラリと見て、煙草の灰を落とした。常に会話の種を探す僕にとっては、渡りに船だ。
    「そうなんだ。僕は出会い系ってやったことないんだけど・・・具体的に何をするものなの?サクラって。」
    「うーん、男の人にポイントを買ってもらうのがお仕事、かな。」
    煙草の先から立ち上っていく煙が、天井のファンに巻き取られるのを見ながら、チアキさんは言葉を続ける。
    「私達はサクラだから、基本的にお客さんとは会わないし、電話もしないの。だけど、お客さんに逃げられても困るから、会話が続くように少しだけメールに工夫をして、話を長引かせて、ポイントを買ってもらうのよ。」

    「一応、あの手この手で会話を引っ張ったりするんだけど・・・この業界は面白い事実が、あるのよ。」
    そう言って、チアキさんは僕の目を見る。
    「面白い事実?なんだろう?」
    少しわざとらしい僕の言葉に満足そうに顔をほころばせて、チアキさんは話を続ける。
    「会話を繋げたり、ポイントを買ってもらうのは、女の子よりも男がサクラをやったほうが、男の人を騙しやすいのよ。勿論、ある程度経験を積んだ男の人じゃないと無理だけどね。」
    「・・・そうなの?男の方が、男心をくすぐれるのかな?」
    「わからないけど、そうなんじゃないのかな。私には男心が存在することを確かめることも、できないんだもの。」
    それは・・・僕にとっての女心とも同じなのだが。
    性別によって、あるシチュエーションへの決まった答え(男心、女心)なんてものが本当にあるのか・・・まだまだ、僕にはわからない。

    「さて、美味しいご飯も食べたし・・・お休みなさい。」
    レストランから出たチアキさんは、待ちきれないというように再び煙草に火をつけて、駅の方へと歩き出した。彼女とは喫茶店にも入っておらず、レストランで少し会話をしただけで別れることになる。
    「駅の方なら、送りますよ。」
    僕がそういうと、チアキさんは
    「いいの、一人になりたいだけだから。」
    と、振り向かずに手をかざして、空を数回漕いだ。レストランでの僅かな会話で、チアキさんは気分を害したのだろうか?それとも、少しでも満たされて帰ったのだろうか・・・?女心どころか、簡単な感情ですらも、僕にはわからないのだと、思い知らされる。


    さようなら、チアキさん。僕はまだまだ、勉強中です。

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    ■2006/10/26(木) アスカ その4

    僕の方に向けられて、テーブルの上にそっと置かれた手帳を、僕は恐る恐る手に取る。白魚のようなアスカさんの指がそっと組まれるのを見て、心なしか緊張が高まった。鞄やポーチの中もそうだが、女性の手帳というものは男には禁忌の領域という印象があるので、丁寧に書き込まれた文字を読むことに背徳感のようなものを感じながら目を凝らすと、一行目に書かれ、最初に目に飛び込んできた単語は「世界一周」だった。
    僕が思わずめまいを覚えたのは、その後だ。「世界一周」から引かれた矢印の先には、「→着替えはどうするの?」と、続いていた。僕が書いた事の無いような可愛い?マークが、それが純粋かつ本気の疑問であることを堂々と表していた。

    「アスカさん。」
    「はい。」
    「先ほど話を聞いていただいたので・・・この、一番上のは、(候補から)消していいですよね。」
    「一番上っていうと・・・」
    「この、世界一周というものです。」
    手帳の上を指して、僕は見せる。見ると、ナツミさんは顔を真っ赤にして笑いをこらえている。僕の冷ややかな視線に気付くと、慌てて帽子を深く被って目線を合わせないようにした。
    「そうですよね、今日一日で帰るんだから、ちょっと無理ですよね。」
    そう言って、アスカさんは納得したように頷いた。「わかっていた」というよりも、「今わかった」といったリアクションに、僕は一抹の不安を覚える。なんだか家を出てすぐに靴紐が切れたような気分になりながら、手帳の続きを読むことにする。

    ○某ネズミ系遊園地へ
    ○カラオケでデュエット
    ○僕の職場を見てみたい
    ○お姫様抱っこ
    ○ナツミちゃんの髪の毛を黒くしたい
    ○ナツミちゃんの髪の毛を長くしたい
    ○ナツミちゃんを毎朝起こしてほしい

    一つ一つ箇条書きされた後に、それぞれのシチュエーション等がぼんやりと書き込まれている。

    以前このブログで書いたこともあると思うが、僕は活字中毒だ。通勤時には中吊り広告の下卑た見出しに憤りを覚えつつも、目が勝手に全ての文字を拾って動いてしまうし、食卓の上に調味料が置かれると、まず原材料名を探してしまう。
    そんな僕でも、この文章を目で追っていくうちに、一旦手帳を閉じて何か飲み物を口にしたくなった。ナツミさんがお腹を押さえて足をパタパタしているところを見ると、これはいわゆる計略というものなのかもしれない。

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    ■2006/10/27(金) アスカ その5

    「えーと。」
    わざとらしく咳払いをしようかと思ったが、手で口を隠すだけでやめておいた。キラキラと輝くアスカさんの瞳に、僕はなんという言葉をかけたらいいのだろう。子供に戦争というものを説明しなければいけない時の親とは、こんな気持ちなのだろうか。これから期待を裏切られるという事実を、アスカさんだけが知らないでいる。
    「とりあえず、ナツミさんへの要望は僕には無理かな。知っての通り、ガンコな人だから。」
    せめてもの抵抗として、苦くも無い皮肉をナツミさんに吹きかけるが、当のナツミさん本人はそしらぬ顔でテーブルの上の紙ナプキンを折り曲げている。

    「そっか・・・」
    この時点で、アスカさんの願いは大部分潰えたことになる。
    「僕の職場も、ちょっと無理かな。今日は会社はお休みだし、仮に休みじゃなくてもお断りすると思います。」
    「・・・。」
    目に見えて小さくなるアスカさんの肩を見て、僕は焦り始めた。なんだかとても、悪い事をしている気がする。一番の悪人は、こうなることを知っていて何も言わなかったナツミさん(丁度、『鶴』を折り終えた所だ)だと、僕は思うのだが。
    「ええと・・・でも、カラオケとお姫様抱っこなら、何とかなると思うから、それからやっていこうか?もし、その間になにか閃いたら、それをやってもいいし。」
    ふと、胸の中にノスタルジーが沸き起こる。思えば子供の頃、泣きそうになった妹をこうしてなだめていた記憶がある。
    「じゃ、カラオケにいってみようか?」
    突然横から飛び込んできたナツミさんの一声で、僕は20年程前から引き戻される。
    「そうだね、それでいいかな?アスカさん。」
    個人的にカラオケはあまり嬉しい選択肢ではないが、ディズ○ーランドの選択肢が浮上しない間に、決定を急ぐ。大勢人が通るパレードの前で女性を抱きかかえて写真を撮るという、予想されうる最悪の危惧に比べれば、これが最善手といえよう。


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    ■2006/10/28(土) 新庄選手について

    20061028082211
    1000円の男とは関係がないのですが、今書かないとずっと機を失いそうなので。
    僕は野球にあまり関心がなく、先日放送されていた日本シリーズもニュースで見る位でした。
    その日も、試合をリアルタイムで見る事はできずにニュースの中の一コマで彼の最後の打席を見たのですが、打席に向かう前から高校球児の様に涙を流し、がむしゃらにバットを降って三球三振に終わる姿に強く心を打たれました。
    思えば、彼の魅力とは素直に心を吐露する生き方にあるのだと思います。
    涙を見せない。大言壮語をはかない。弱音を見せない。そう、少年の頃から教えられた事を簡単に翻し続ける彼は、不器用な生き方しかできない僕の憧れなんだと、思います。
    胴上げをされた事のない男の、通勤前の雑感でした。

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    ■2006/10/29(日) アスカ その6

    喫茶店は同じ店を使うことが多いが、カラオケは毎回違う店に入るようにしている。前者も後者も特に意味はないのだが、幼い頃に読んだ小説にあった「馴染みの喫茶店」という一行が、なんとなく大人の証として目に焼きついているのかもしれない。
    体と歳だけが大きくなった僕は、初対面の女性と、その友人とカラオケにいこうとしている。少年の頃の自分には、こんな将来像は良くも悪くも予想外だろうが、「長い退屈よりは、苦労の方がマシ」だという事実を少年は知らなかったのだ。

    受付で言われたとおりの番号がついているドアを開けると、閉鎖された空間特有の厚い空気が頭のてっぺんに乗しかかる。僕がドアを開けている間にナツミさんとアスカさんが部屋に入り、早速ドリンクのオーダーを選んでいた。
    足を組んで、ジーンズから出た膝を誇らしげに掲げるナツミさんの横で、アスカさんは恋人の様にナツミさんの腕を組んでメニューを覗き込んでいた。男が肩を組むような心情なのだろうか。どちらにせよ、僕にはわからないものだ。

    僕は部屋のドアをしっかりと締めて部屋を外界と隔離すると、使われていないほうのメニューを取り出して、一人で読んでいた。
    オレンジジュースにするか、トマトジュースにするか。はたしてオレンジジュースは100%のものなのだろうか・・・そんなことを悩んでいると、メニューで口元を隠して、ナツミさんとアスカさんがなにやら小声で話をしていた。
    今までのナツミさんの行動からすれば、あまり好意的な予想を立てられない密談だが、今の僕には飲み物を聞くくらいしか、できない。
    「ねぇ、仙道さん。」
    僕がオーダーを終えて受話器を置くと、アスカさんが声をかけてきた。
    「はい、なんでしょう。デュエットの曲は決まりましたか?」
    距離を置いた感じになるので、あまりよくないとは思いつつ、アスカさんが丁寧語で話しかけてくるので、ついつい丁寧語で返してしまう。
    「そう、そのことなんですけど、仙道さんはこの人の曲は知っていますか?」
    そう言って差し出された歌本を見ると、見たことのないカタカナのバンドの名前が、数行だけ連なっていた。音楽に精通しているわけではないが、全く聞いたことのないバンドだ。
    「うーん、ちょっとわからないなぁ。ごめんね。」
    アスカさんの願いは「カラオケでデュエット」なのだろうか。それとも、「カラオケで、ある曲をデュエット」なのだろうか・・・後者ではないことを祈りつつ、僕はアスカさんの目を見る。そもそも、あまり得意ではない歌をメインに期待されると、なかなか厳しいものがある。

    そんな気持ちを察するかのように・・・とはいっても、まず察してはいないと確信できるのだが、アスカさんは言葉を続けた。
    「じゃ、デュエットは諦めます。その代わり・・・」

    そう、薄々気付いてはいたが、アスカさんを人格のジャンルとして区分けるのなら「天然」とするのが適当なのだろう。そして、ナツミさんは「小悪魔」といったところだろうか?

    アスカさんの言葉の続きを聞いて、僕はその二人の相性が相乗するものだと、思い知らされる。


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    ■2006/10/30(月) アスカ その7

    「その代わり、お姫様だっこをしてほしいの。」
    音楽の流れていないカラオケの一室に、アスカさんの声が小さく零れる。思ったよりまともな答えでほっとしたが、悪の参謀であるアスカさんが歌本ごしにこちらをチラチラと見ているのが、若干気にかかる。
    「わかりました。やったことはないけど、多分大丈夫でしょう。」
    僕は、人の身長を見た目で測るのが苦手だ。細かい数字どころか、大雑把にこれくらいと目安をつけることも得意ではなく、相手が自分より大きいか小さいかすらも間違える始末だ。とはいえ、アスカさんは間違えようがなく女性の中でも小柄なほうだった。腕力はからっきしだという自信があるが、そんな僕でも不恰好ながら持ち上げることくらいはできるだろう。
    それに、昭和生まれの知識では、女の子がお姫様抱っこにあこがれるという話も聞いたことがある。そんな些細な夢を叶えられるのなら、1000円の男としてまさに本懐というべきだろう。
    「それじゃ、どうしようか。まずはこっちにきてもらって、椅子から持ち上げようかな。」
    アスカさんは素直に頷いて、再び歌本を開いた。
    「じゃ、これを歌ってる間、抱っこしててね。」

    「え・・・。」
    聞いたことのないバンドの、ラブソングが一体何分続くのかはわからない。一曲4分として、息を乱さずに任務を遂行する自信は、僕には無かった。
    「歌っているずっと間じゃないと、ダメなのかい・・・?」
    何が恥ずかしいのか、恥ずかしそうに頷くアスカさん。もう、ナツミさんは笑顔を隠そうともしていない。全ての黒幕が目の前にいながら、抵抗できない口惜しさを奥歯でかみ締めながら、僕は腹をくくった。
    「わかりました。じゃ、曲を入れてください。」
    アスカさんの願いを完遂できるかどうか、僕にはわからなかった。ただ、カラオケに来た時点でアスカさんの願いの殆どは断っており、なりふりを構ってはいられない事態になっているのだ。

    アスカさんが両手でリモコンに曲の番号を入れるのを、僕は固唾を呑んで見守っている。ナツミさんは何も言わなかったが、「本当にやるの?」という顔で驚いたようにこちらを見ていた。僕が断るという予想だったのだろうか。こうなったら意地でも挑戦してやろうと、決意を固める。

    やがて、ソリッドなギターが部屋の中を支配しはじめる。思ったよりもテンポの速い曲だ。もしかすると、短い曲なのかもしれない。僕は首を鳴らすと、アスカさんの足の下に手を通して、片手を僕の肩へと運ぶ。アスカさんは僕が跪いて近づいたことに少し驚いた様子だったが、やがて集中した面持ちでモニターへと視線を移す。
    「よっ・・・!」
    腹に力を入れて、アスカさんの体を引き寄せると、腰の重心を崩さないように持ち上げる。足がふらつかない様に右足と左足の間をを少し開いて、アスカさんの体重を背にかけるように持ち上げる。
    生まれてはじめてのお姫様だっこは、どうやら成功した。やればできる。ありがちな感想だが、そう思った。だが、その感動もつかの間のことだった。
    「ちょっと、痛いです・・・。」
    どうやら僕は強く足を持ちすぎていたようだ。慌てて左手の力を緩めて足を軽く持つ。既に、体のあちこちで乳酸を生産しはじめてきている。


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    ■2006/10/31(火) アスカ その8

    夢を売る職業。そんな詐欺師のような台詞をはく気は毛頭ないのだが、女性一人を抱き上げるのに歯を食いしばって汗を流している時点で、僕の仕事は半分失敗していたのだろう。両手でマイクを握るアスカさんの手も、右の脇に僕の腕が入っているので心なしか窮屈そうだった。
    「無理すんなー。倒れる時は、ちゃんとアスカの下敷きになれー。」
    プラスチックのメニューをメガホンにして、ナツミさんが茶々を飛ばしてくる。非難めいた視線を送るだけで、僕にはそれに応える余裕などない。

    「大丈夫ですか?頑張って!」
    アスカさんは、無理をしないでとは言わない。僕の首に絡めた腕に力は入っていないが、女性らしい柔らかな香りが、顔のそばにある髪の毛から僕に伝わってくる。
    本当なら、もう少し含みのあるシチュエーションでアスカさんの髪の香りを覚えたかったのだが、既に僕の腕と腰は限界のメーターをちょっぴりはみ出しそうになっていた。

    男は汗だくになって女性を抱え、女性はやりにくそうに歌を歌っている。果たして、僕は一体何をやっているのだろう・・・そんな事を考えて、頭を振る。問題は、そこではなく、僕の腕力が一曲終わるのに持ちそうにないということだ。

    最後の息を吸って、目を閉じる。おそらく、次に息を吐いた時に僕の手は限界に達する気がする。そう、自分を追い詰めて集中力を高める。
    「もういいから、離して座りなよー。」
    ナツミさんの野次が、小さくなってきた。自分が焚きつけたことに、少し不安になってきたのだろうか。
    可愛いところも、あるんだな。頭の隅っこがそう考えた時、細波のような感触が、背中を走る。
    「ごめんね。」
    まだサビにも入っていないアスカさんへ向かって、そう呟くと、僕は残された力を振り絞って、アスカさんを抱えたまま椅子へ向かい、腰を下ろす。ナツミさんは、少しほっとしたような表情で、アスカさんは不思議そうな顔をして僕を見上げている。

    「これじゃ、ダメかな。」
    そう言って、僕はアスカさんのお尻を右膝の右横に置き、足をそろえたまま僕の膝を跨ぐような形に置く。右脇に通していた手で肩を抱いて、少し体を引き寄せる。これで、息切れさえしていなければ、もう少し格好がつくのだが。
    キョトンとしていたアスカさんは、よくわからないといった風に僕を見て一度首を傾げると、再び歌を歌い始めた。お気に召さないというわけではないようだが、今は一曲歌い終えるのが優先事項のようだ。かたやナツミさんは、あまり嬉しそうな面持ちはしていない。どうやら、僕が肩を抱いたのがあまり気に食わないようだった。

    殆ど僕の耳には入ることのなかった長い長い一曲が終わると、ナツミさんは静かにマイクを置いて、僕の肩へともたれかかった。僕の息は、まだ収まらずに荒れている。
    「そうですね、こういうのも、アリですね。」
    そう言うと、色々な幸せを混ぜたような顔で、猫の様に笑った。彼女の心を察することは、僕には当分無理なような気がするが、どうやら多少の満足はいただけたようだ。

    「ありがとうございます。」
    よかった。この汗の数パーセントは、ムダではなかったのだ。そんな喜びに打ちひしがれ、僕は壁によりかかって深く息を吐く。
    ナツミさんはそれを見ると、面白くなさそうな表情で、おしぼりの袋をポン、と鳴らした。

    さようなら、アスカさん。優しい友達と、いつまでも。

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