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仙道緑(1000円の男)
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    ■2006/08/01(火) アヤノ その3

    少しだけ悩んだが、結局僕は素直に思ったままを話すことにする。僕が上手な嘘をつけるのなら、それでもよかったのかもしれないが、重い雰囲気とアヤノさんの視線の前では、ビニールのような薄っぺらい嘘はすぐに溶けてしまいそうだった。

    「正直に言うと、あなたに話しかけたのは本当に偶然なんです。僕は道を歩いていて目が合って、話が通じそうな女性なら誰にでも声をかけます。」
    そう言うと、アヤノさんは言葉を噛み砕くかのように無言で頷く。
    「だから、綺麗な人に話しかけたら?っていうのは、あんまり考えたことなかったです。むしろ、こうしてゆっくりとお話が出来る人の方が、僕としては嬉しいですよ。」
    「そう・・・かな。」
    下を向いたまま、アヤノさんは少し照れたように言うと、オレンジジュースに刺さったストローにキスをする。

    「ええ。僕の説明を、脱線せずにちゃんと理解して聞いてくれたでしょう。聞き上手な人は、1000円の男からしたら、セクシーとかセレブとかセパレートなんかよりも、ずっと魅力的ですよ。」
    僕が身振り手振りを交えてそう言うと、アヤノさんは初めて恥ずかしそうな笑顔を零してくれた。その顔は相変わらず下を向いたままだったが、どこか不器用なその笑顔を見て、ほっと気が楽になる。

    「よかった、笑ってくれた。」
    僕がニコニコとしながらそう言うと、アヤノさんは少しだけ頷いて、再びちょっとだけ気まずそうにオレンジジュースを見つめた。結局、話し始めた時と同じような状態に戻ったともいえるが、口の端に残っている笑顔を、僕は宝物の様に目ざとく見つけていた。

    「ねぇ、仙道さん。」
    カフェオレを飲みながら、次の会話の種をどこから拾おうか少し悩んでいる時だった。アヤノさんが真剣なまなざしで僕へ話しかけてくる。その気迫に少しだけ戸惑いながらも、僕は笑顔で首を横にかしげる。
    「はい、なんでしょう。」
    「私、滅多に男の人に声をかけられないんだけど・・・今日は、仙道さんに話しかけられて嬉しいかもしれない。」
    「そうか・・・それはよかった。ありがとうございます。」
    なんだか改まって礼をしたい気分になって、僕は両膝に手を乗せて頭を下げる。
    「だからね、して欲しいことがあるの。」
    顔をあげた僕を見つめるアヤノさんは、いつもそんな顔で疲れないのかと心配するくらい、相も変わらずの真剣な表情だった。
    「ええ、喜んで。僕はその為に声をかけたんです。」

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    ■2006/08/02(水) コウショウ

    職場で休憩をしていた時のこと。社員の共有スペースとして使われているテーブルの上に、普段は手に取る機会の無いパチンコ雑誌が置いてあった。

    暇つぶしにと思ってページを何枚かめくったのだが、パチンコをやったことのない僕には専門用語ばかりで、読み物として素直に楽しめない。仕方なく漫画のところや初心者向けコーナーなど、裾野の広いところを読んでいたのだが、ふと、最後の方にカラーで載っていた出会い系の漫画広告に目が留まった。

    要約すると、無料の出会い系サイトに登録したら、早速暇をもてあます人妻から連絡があり、よしなになった上でお金まで貰えたというもの。大部分の人に失笑されるためにあるような広告なのだが、仮にも全国紙にカラーで広告を出せるのだから、それなりに人々を騙し続けているのだろう。
    ブランド物の服を買ってもらい、幸せそうな主人公のイラストを見て本を閉じると、本の持ち主であろう同僚が、こちらを見てニヤニヤと笑っていた。

    「なんだ、仙道も出会い系とか興味あるの?」
    「いや・・・やらないよ。ただ、漫画がいかにもって感じだったから、ちょっと面白かっただけだよ。」

    「仙道も」ということは、彼も出会い系にハマっていたりするのだろうか。まぁ、人の趣味はそれぞれかな・・・と思ったところで、ふと自分の「趣味」を思い出す。

    1000円の男・・・も、考えようによってはこの広告の漫画と似たような事をやっているのかもしれない。というより、考えれば考えるほど、共通点ばかりのような気がしてくる。自分がやっている事を高尚だとは思ったことはなかったが、その漫画を笑っていたということは、どこか自分を正当化していたのだろうか。何気なく手に取った雑誌に、自分を考えさせられる日だった。

    ・・・とはいえ、まだパワーストーンとかの類よりはマシだと思うのだが。

    ちょっと閑話を入れました。次からまたアヤノさん編に戻ります。お手数でなければ、クリックをしていただけると嬉しいです。

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    ■2006/08/03(木) アヤノ その4

    「別にお願いってほど特別なことじゃないんだけど・・・。デート、したいの。普通のデートを、したいの。」
    胸から出る気持ちを振り絞るように、アヤノさんが呟いた。

    「デートですね。いいですよ。普通のっていうのがちょっとわからないけど・・・。どういうデートがしたいのですか?」
    その言葉を聞いてアヤノさんは申し訳なさそうに頭を振る。
    「普通・・・私も、それがわからないの。あんまり男の人とデートとかしたことないから。」
    どうやら、僕の発言は失点のようだ。こっそりと奥歯を噛んで、苦し紛れに話題を切り替える。
    「そっか。普通ってなんだろうね。僕もこんなこと(1000円の男)をやっているけど、何が普通かっていわれると、ちょっと難しいな。」
    そう言って、僕は片手を出して指を折っていく。
    「映画、ショッピング・・・遊園地は無理か。ボーリングとかダーツは出来る?・・・まずは、お互いの趣味を知ることが先かな。」
    慌てて会話を切り出したので、我ながら空回りしている感は否めない。結局僕は10も数えられないうちにアヤノさんに助けを求めた。
    「趣味、ですか。あんまりスポーツとかは・・・。」
    そう言って、アヤノさんと僕は言葉を失う。二人とも遠慮がちに思案しながら、相手の素晴らしいアイディアを待っている。打破をしなければいけないのは、やはり僕の方だろう。

    「じゃあ、こうしましょう。とりあえずデートにお勧めな場所を知っていますから、そこを回りながら次の事を考えるというのは?」
    僕の提案に視線を合わせ、アヤノさんは静かに頷く。
    「でも、どこに行くの?」
    もっともな質問だ。
    僕は過去の記事にこそ書いていないが、女性との時間の潰し方に困った時には、いつも喫茶店か、あるお店を使うことにしている。
    「ここから歩いてすぐですよ。もしそこが嫌だったら、別のところにしましょう。」

    静かに頷くアヤノさんを見て僕が立ち上がると、アヤノさんも丸まったストローの袋をトレイの上に乗せ、僕に続いた。
    「手は、繋ぎますか?」
    店から雑踏の流れに出てすぐに、僕はアヤノさんに尋ねる。突然の質問に戸惑うアヤノさんを見て、
    「それじゃ、繋ぎたくなったらいつでも触ってくださいね。」
    と言って、左手を見せる。アヤノさんは、小さく「ハイ」と言って、頷いた。

    やがて、10分も歩かないうちに、僕達の目の前に大きな建物が見えてくる。1000円の男には、「困った時の東急ハンズ」とされているお店だ。

    「上からぐるっと見て回りましょう。少しデートらしいでしょう?」
    見慣れた建物なのだろうか。少し緊張が解けたように笑って、アヤノさんは頷いた。

    「YES」という意思表示を表す首肯を、笑顔でしてくれた。なかなか固さの解けないアヤノさんの、そんな小さな動作が嬉しかった。

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    ■2006/08/04(金) アヤノ その5

    東急ハンズは決して安い店ではないが、その品揃えと建物の大きさ、店内の雰囲気がいいことなどから、「1000円の男」を始める前から、時間を潰したい時など一人でぶらぶらと見て回ることがあった。仙道緑になってからも、使い方の解らない不思議な商品や、店員が実演販売をしているところなどを見たりして、出会ったばかりの女性と話の波長を合わせるのに使うことがある。

    僕とアヤノさんはエレベーターで最上階に昇った後、順番に熱帯魚の美しさやソファのすわり心地やテンピュール枕の肌触りを見て回った。今年に入って何度目のハンズ巡りかはわからなかったが、これも仕事と思えば苦痛ではない。途中、お互いの手が結ばれることはなかったが、アヤノさんの深く鋭い観点に関心したり、ゴミ箱に対する生活観のささいな共通点などを見つけて、お互い笑いあったりしていた。

    画材コーナーに着いたときのこと。僕が少し目を離した隙に、アヤノさんは熱心に筆を一つ一つ手にとって見ていた。僕は気付かれないようにそっと隣に立ち、目線が合う位置まで腰を落とす。
    「熱心に見てるけど、絵を描くんですか?」
    そう僕が言うと、集中していたところに話しかけられて驚いたのだろうか。宝物を隠す子供の様に、手に持っていた筆を背中に隠して僕の方を見た。
    「い、いえ。別に・・・なんでもないです。気にしないで。」
    そうは言われても、そんないいリアクションを取られてしまっては、気にしないわけにはいかない。
    「そうですか・・・。それじゃ、アヤノさんは自分の耳に筆を突っ込むのが趣味って一生誤解されたままですよ?」
    「え・・・ちょっとヤダな、それ。」
    「折角こうして出会えたのに、アヤノさんが携帯のアンテナに筆を刺して、バイブレーターで耳をくすぐっている人だと誤解したままなのは、僕も残念です。」
    「よく、そんなこと思いつきますね・・・。」
    呆れたというより驚いたという顔で、アヤノさんは僕をまじまじと見つめる。他愛のない下ネタには、あまりなれていないのかもしれない。これくらいにしておいてよかったと、密かに胸をなでおろす。


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    ■2006/08/05(土) アヤノ その6

    「もしよかったら。」
    と、言葉を区切って、少し低い声で言い直す。
    「教えてくれませんか?筆を見ていたわけを。」

    目線を合わせながら意地悪くそう言うと、アヤノさんは黙ってしまった。流石に突っ込みすぎたかな?と思い、断りを入れようとすると、アヤノさんは
    「あの・・・」
    と、口を開いた。口を開くタイミングを失った僕が言葉の続きを待っていると、アヤノさんは辺りを見回して、店員が近くを通り過ぎるのを待ってから、口を開く。きっと、それは誰にも聞かれたくない、大切な秘密なのだろう。
    「中学生の頃、絵を描くのが好き・・・だったの。」
    水に塩が溶けていくように、小さな口から紡がれる秘密を、僕は黙って聞いていた。心地よい店内のジャズですらも耳から追い出して、ただ言葉の続きを待つ。

    「高校になっても描き続けたかったんだけど・・・進学校に入ってからは、毎日毎日勉強で、どんどん描く時間が減ってきて。大学を受験するときには、ほとんど筆を握ることも無くなってたの。」
    ふう、とため息をついて、アヤノさんは言葉を続ける。

    「それで、ずっと絵のことは頭から締め出していたんだけど・・・。今日、久しぶりに筆を見て、ちょっと思い出してしまったというわけです。終わり!」
    そう言って、アヤノさんは大きく息を吐いた。小さな体が、少し震えていた。

    「美大とかは、考えなかったんですか。」
    そう気軽に質問をする僕を、アヤノさんは静かに笑って、見つめ返す。
    「親がうんとは言わなかったし・・・それに、私、才能ないもの。」
    それは、何度も自分に問いかけた質問だったのだろう。

    自分の乗っているブランコを持ち上げても、空には上がっていかない。

    そんな当たり前の事を何も知らない子供に諭す母親の様に、静かで心の動きがない、深いクレパスの陰の色をした目だった。

    「そう・・・ですか。変な事を聞いてごめんなさい。」
    謝る僕の目の前で、アヤノさんは慌てたように手を左右に振る。
    「あ、いいんですよ。もうずっと前からわかっていることだし。それに・・・。」
    「それに?」
    「今、筆を手にとってみて、また描いてみようかなって思っただけでも、ちょっと嬉しいんです。今までは、絵を描くとお父さんやお母さんを責めるみたいな気がして、ちょっと気兼ねしてたんですけど・・・。もう受験から何年も経つし、趣味としてなら、いくらでも描いていいのよね、きっと。」
    気持ちを整理しながら、言葉を自分の中から吐き出したのだろう。全て言い終わると、アヤノさんは天井を掴むかのように、大きく大きく伸びをした。

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    ■2006/08/06(日) アヤノ その7

    やがて、手に持った筆を名残惜しそうに元の場所へ戻すと、アヤノさんは無言のまま僕を見上げて、僕の顔をまじまじと見つめた。

    「・・・僕の顔に、何かついてますか?」
    まっすぐな視線のくすぐったさに耐え切れず、少し目をそらして聞く。
    「顔を見ているの。よく覚えておいて、家でデッサンを描けたらなって思って。」
    胸の前で僕の顔の輪郭を作るように両手を動かして、アヤノさんは言った。絵の話をしているときのアヤノさんは、何かに遠慮するような引っかかりのある大人しさが抜けて、動作の一つ一つが瑞々しく健康的だった。

    「携帯の写メールで撮ってみては・・・?」
    「あ、そうか・・・。うーん、でも、あなたの雰囲気を覚えておきたいの。なんだか、優しくてゆっくりとしたオーラみたいなものがでている人だから・・・。」
    そう言って、アヤノさんは一歩僕に近づいて、中指でそっと僕の頬に触れた。
    「不思議な人。あの時、なんだか気になって振り返って・・・本当に良かった。」
    苦し紛れに寄った東急ハンズが、ここまでアヤノさんの心に響いてくれるとは思ってもいなかったが、たとえ偶然でも、アヤノさんの役に立てたのなら、素直に嬉しい。

    「ありがとうございます。そう言ってもらえると、僕も声をかけた甲斐がありました。」
    そう言って僕が笑顔になると、頬に触れていたアヤノさんの指先が段々と輪郭に沿うように顔に近づき、やがて蝶が花にとまるように、唇に親指が触れた。
    ふと、今まで意識していなかった店内のBGMが、心臓の鼓動に合わせて頭の中で響く。アヤノさんの手が僕の顔に触れていたのは、ほんの数秒だったが、夜の公園で人に隠れてキスをする時のように、心が熱を帯びてくる。

    「必ず、あなたを絵に描きますね。」
    そう言って、アヤノさんは僕の唇に触れていた親指で、自分の唇をそっとなぞった。間接キス・・・なのだろうか。チラリと、アヤノさんの持つ女性としてのツヤを垣間見た気がして、また鼓動が早まった。
    「ええ。光栄の至りです。」
    「ふふ・・・。やっぱり。口がお上手。」
    そう言って、安心したようにアヤノさんは笑う。
    「さ、デートの続きをしましょう?」
    秘密を打ち明けたから・・・なのだろうか。少し、明るくなった気がする表情を見て、僕は喜んで頷く。

    もし、暇つぶしに寄っていたのが東急ハンズではなくてドンキホーテだったら・・・こんな笑顔は見られなかったかもしれない。店の外へ出たとき、見慣れた建物へ少し感謝して、僕はアヤノさんとハンズを後にした。アヤノさんが僕に今歩いている道を教えてくれたのは、その後のこと。

    さようなら、アヤノさん。患者さんの心を和ませるような、暖かい絵を描くお医者さんになってくださいね。

    間接キスに未だ心動かされる方は、クリックをしていただけると嬉しいです。




    04:55 | トラックバック(0) | コメント(9) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/06(日) お知らせ

    オススメ!ブログの達人さんで当blogを紹介していただけるそうです。なにやらインタビューまでされてしまいました。以前からリンクさせていただいている帰ってきた えろくない「絵」ろぐ。さんなども紹介しているブログです。面白いブログを探している方は、遊びに行ってみて下さい。

    人気ブログランキングの順位が順調に伸びてきています。・・・と同時に、ブログランキングさんからのお客さんも増えてきています。色々な人に読んで欲しくてランキングを貼ったので、盛況は嬉しい限りです。皆さん、いつもクリックありがとうございます。

    ○大学の映画サークルをされている方から、このブログを映像化したいというお話がきました。まだ詳細などは決まっていませんが、話が立ち消えにならないことを願っています。

    ○まだまだ名前の募集をやっています。僕を助けると思って、女性の名前のアイディアをいただけないでしょうか。

    少しずつメジャーを目指す当blogに、応援のクリックをしていただけると嬉しいです。




    22:02 | トラックバック(1) | コメント(8) | 未分類 | Page Top


    ■2006/08/07(月) ホスト

    街中で女性に声をかけるとき、ホストかキャッチに間違えられることがある。髪も黒いし、なるべく警戒されないようにと、スーツは着ないようにしているのだが、今時街中で声をかけてくるのはホストかキャッチくらいなのだろうか。

    今日は、そんなホストの話。

    「すいません、急いでいるので。」
    と、足早に去る女性を見送った後、僕は特に落胆もせず駅の方へと歩き出した。なんだかんだで、声をかけて成功するほうが珍しいのだ。声をかける女性全てに対して傷ついていては体が持たない。

    一時間前にコンビニで買ったポカリスエットを鞄から出して、一息を入れる。まだ少しだけペットボトルの表面についている水滴が、夏へのせめてもの抵抗に見えた。

    湿気の多さに辟易としながら、駅前の道路でTシャツに風を通している僕に、
    「すいません。ちょっといい?」
    と、声をかけてきたのは、まだその顔にあどけなさを残した青年だった。痛んだ茶髪・ネクタイ無しのスーツ・夏休みの少年よりも黒く日焼けしている肌。おそらく彼こそは、僕が間違えられるというホスト(またはキャッチ)なのだろう。良く見ると、話しかけた彼の後ろにも二人、同じような姿格好の人がこちらを品定めするように立っている。

    「・・・何?」
    まずいな、と思いながら、返事をする。

    男性である、数がいる、話が通じるかわからない。僕にとって良い要素は、全く無かった。


    気がつけば、昨日の記事が100エントリー目でした。記念に、ちょっとだけ写真をあげてみました。恥ずかしくなったら削除するかもしれません。

    ホストと話したことがある人もあこがれている人も、クリックをしてくれると嬉しいです。




    23:50 | トラックバック(0) | コメント(6) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/08/08(火) ホスト その2

    「何?じゃなくてさ。あんたどこの人?一般人?」
    最初に声をかけてきた、背の高い男が聞いてくる。僕と同じくらい(180前後)か、それよりも少し高い背丈を斜めにかしげて、僕の返答を待つ。
    「いや、一般人だよ。何か問題でもあるの?。」
    動悸と緊張を隠しながら、僕は平然を装って聞き返す。はっきりいって、僕は腕っぷしの方はからっきりだ。服装、顔立ち、佇まい。どこをどうとっても強そうには見えないだろうし、そんなつもりもない。喧嘩が強そうに見えて、「1000円の男」にとって何の得があるというのだろうか。
    それでも、僕に多少威圧感があるとすれば、牛乳と10時間の睡眠で大きくなったこの身長だろう。僕から見ても180cmの男は大きく見えるのだから、向こうからしても小さく見られることは無いはずだ。

    「問題あるんですよ。さっきから見てたんですけど、この辺でナンパしてましたよね?」
    「ああ、そのこと。」
    とぼけて、返す。僕がやっているのはナンパじゃないとは、流石にいえない。
    「いやいやいや、「ああ、そのこと。」じゃなくて。俺ら親切で言ってるんですよ?怖い人呼ばれたら、連れて行かれちゃいますよ?マジで。」
    少し話して気付いたのだが、彼は初対面の人に対しての距離感が近い。職業病なのだろうか、同姓の僕に対しても、すぐ目の前まで顔を近づけて話す。

    「そっか。わかったよ。もう、この辺じゃやらないよ。」
    僕があっさり食い下がっても、彼の表情は固いままだった。僕にとって、ここでネゴる必要はない。場所か駅を変えても、体一つあれば「1000円の男」は出来る。彼の言う怖い人というのが本当か嘘かわからないが、無理にリスクを負う必要はなかった。ただ、今までこの駅で会った人との再会の可能性が少なくなるのだけが、少し心残りではあったが・・・。
    「それだけ?じゃ、いくよ。」
    片手をひらひらとさせて、僕は踵を返すと、人ごみを目指して歩き始めた。背中に彼の声がかかっても無視をするつもりだったが、雑踏の中で、彼の声が再び僕へ発せられることはなかった。

    馴染みの喫茶店へ一人で入り、高めの椅子に腰をかけて、ようやく一息をつく。これからは、駅を変えたほうがいいのだろう。次に彼らと会って僕が同じ事をしていれば、いい顔をされないのは確実だ。
    予定外・・・といえば予定外だが、完全に予想外の出来事ではなかった。隣から流れ込んできた煙草の甘い煙をため息で吐き出して、僕は低い天井を見上げて、頭の中に路線図をぼんやりと描いていた。

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    23:52 | トラックバック(0) | コメント(2) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/08/10(木) サチコ その8

    7月のある平日。勤めを終え、さしたる用事もなく家路へと向かう僕が、駅の階段を登っていた時のこと。
    湿度と汗を材料にして太ももに張り付くズボンに、なんとも形容しがたい気持ち悪さを感じながら、素直にエスカレーターを使えばよかったと、僕は少し後悔をしていた。静かに進む文明の利器を羨ましげに脇目で見ると、階段の僕と平行して進むエスカレーターの上に、どこかで見たことがある女性がいることに気がついた。

    中学校の時の友人ほど曖昧模糊なレベルではないが、仕事の人間ほどはっきりと覚えてもいない。そもそも、この年代の女性には殆ど知り合いはいないはずなのだ。・・・もっとも、それは僕が1000円の男をやっていなければの、話だが。

    彼女は・・・そう、サチコさんだ。blogでサチコという名前を使っていたので少し混乱したが、慌てて名前を思い出すと、サチコさんの周囲を見回し、彼女が一人であることを確認して、階段を上りながらエスカレーターの中のサチコさんへと話しかける。

    「サチコ・・・さん。」(当然、サチコさんの本名で呼んでいます)
    驚いて僕の方を向いたサチコさんは、すぐに僕の顔を思い出して笑顔になった。緊張のオーラが一気に解けて、明るい雰囲気になってくれたのが、素直に嬉しい。
    「あら・・・お久しぶり。」
    軽く会釈をすると、僕は他の客の視線を浴びつつ、階段を登りエスカレーターの終点まで歩いて、回り込む。サチコさんは特に大きな手荷物を持っておらず、どこかの友達の家へちょっと遊びに行った帰り、といった印象を受ける。
    「ご無沙汰しています。その後、お元気でしたか。」
    そんな社交辞令に、サチコさんはゆっくりと頷く。
    「ええ、おかげさまで。仕事帰りなの?」
    そう言って、サチコさんは文字通り僕の頭からつま先までを、ゆっくりと見澄ました。
    「ええ、平日は普通の勤め人ですから。」
    僕は鞄をあげて、肩をすくめる。
    「もし時間が空いているなら、お茶でもしませんか?」
    そう、僕が誘うと、サチコさんは上品に左手の手首を見て少し考えたが、すぐに
    「そうね。あんまり時間がないけど、お茶くらいなら・・・。」
    という色よい返事が返ってきた。

    喫茶店のドアを引いて、サチコさんを中へ入れると、サチコさんは奥の方の喫煙席を取った後で、以前と同じようにアイスコーヒーをオーダーした。きっと、以前と同じようにミルクだけを入れて、黒と白の渦を作るのだろう。
    「今日は、僕が払いますよ。この前と違って、今日のは個人的なナンパですから。」
    笑顔でそう言うと、サチコさんは左斜め後ろに立つ僕へじっと視線を合わせて、
    「そう、ありがとう。ご馳走になるわ。」
    と、素直に頷いてレジから一歩身を引いた。
    「あなたは・・・アイスカフェオレだったっけ。」
    というサチコさんの言葉に笑顔で頷いて、僕はいつも通りの飲み物を注文する。
    普段は滅多に喫茶店へ入らない僕が、カフェオレを頼む。
    スーツを着ながらでも仙道緑へと変われるスイッチが、店員の手から渡された。

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    20:58 | トラックバック(0) | コメント(4) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/11(金) サチコ その9

    席について向かい合い、僕はガムシロップを、サチコさんはミルクをそれぞれ自分の飲み物へと入れて、口を付ける。気付かないうちに汗を沢山かいていたのだろう。氷を涼しげに浮かべるカフェオレが、喉を心地よく通った。

    「スーツ。」
    最初に口を開いたのはサチコさんだった。煙草のせいだろうか。低く詰まった言葉を咳払いして、もう一度言い直す。
    「スーツ、似合ってるわね。」
    そう言われて、僕は自分のジャケットの袖を見る。褒められるほどのものではないと、自分でわかっていたので、安物のグレーのスーツが急に気恥ずかしくなる。人に会うとわかっていたのなら、もう少しいい物を着てきたのだが。
    「そうですか?ありがとうございます。」
    褒められ慣れていない僕がなんの捻りもない返事をするのを、サチコさんは微笑んで見つめている。その視線を浴びるたびに、レリーフとなっていたサチコさんへの記憶が、リアルに息をしはじめる。

    「やっぱり、男はスーツね。」
    そう言って煙草に火をつけると、サチコさんはもう一度ゆっくりと僕の上半身を見つめた。
    「暑いのを我慢して着崩してないのも、良い感じよ。折角スーツを着ているのに、だらしなく着崩したり、子供みたいに漫画の雑誌を読んでいたりしたら、スーツの色気が台無しなんだから。」
    ゆっくりと天井へ煙を送り、サチコさんは視線を合わせてくる。

    「あれから、ずっと同じようなことをやっているの?」
    僕は頷いて、今まで会った女性のことや、近況などを話した。サチコさんはアイスコーヒーと一緒に僕の話を飲み込み、時々煙草の煙を吐いて僕の話を整理していた。
    ・・・ちなみに、あの時買った下着はちゃんと使っているという。
    「惜しかったわね。もし着けてたら・・・見せてあげても良かったかもしれないわ。」

    そんな台詞を聞いてもカフェオレを揺らさないくらいには、僕は成長していたようだ。
    「あら、動じないのね・・・つまらない。」
    そう言いつつも、サチコさんは楽しそうに頬杖をついていた。

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    23:48 | トラックバック(0) | コメント(7) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/12(土) サチコ その10

    やがて、時計の長針が60分の中で一番注目される位置に近づくと、サチコさんは所在無さげにグラスの中の氷を回し始めた。

    「そろそろ・・・時間ですか?」
    僕がそう切り出すと、サチコさんは黙って頷いた。少し不満げに理性と戦うその顔からは、いつもの余裕が薄れ、純粋な女の子のような表情が垣間見えた。

    口数も少なく喫茶店を出た所で、僕達二人は改めて向かい合う。
    「それじゃ・・・。」
    と、別れを言い始めた僕に手のひらを見せて、サチコさんは口を開いた。

    「ちょっと待って。・・・ネクタイを直させて。」
    「ネクタイ?曲がっていますか?」
    僕は、首をすくめて自分のネクタイを見る。サチコさんは、小さくかぶりを振って
    「いいから。」
    と呟いた。僕は背筋を伸ばして、サチコさんのするがままになる。細い手でゆっくりと僕の襟からネクタイを整えると、サチコさんはそっと右手を僕の胸ポケットの上に当てた。
    「この前、別れてから・・・時々思い出してたのよ。」
    手を伝わって胸に低く響く声を、僕は静かに胸の中で受け止める。
    「初めて会った時よりも、今回の方が別れが辛いってことは・・・次はやばいのかもね。」
    そう言って、サチコさんは僕の胸から手を離した。

    「ネクタイ締めさせてくれて、ありがとう。この前腕を組んだ時に思ったんだけど、首が細いところとか、なで肩なところとかが・・・ちょっと旦那に似ているのよね、あなた。」
    僕は返す言葉がわからずに、黙って肯く。
    「おかげで、ネクタイを締めている時にちょっとだけ思い出せたの。・・・ありがとう。」
    段々と言葉を詰まらせながら、何かを隠すように俯くと、サチコさんは僕の顔も見ずに踵を返した。
    「じゃあ・・・ね。バイバイ。」
    そう言葉を残して、足早に人ごみの中へと消えていく姿が、海へと帰っていく人魚の様に鮮やかで、僕は結局何も言えずに、ただ突っ立ってサチコさんを見送ることしか出来なかった。

    あっという間に一人の女性を飲み込んだ人の流れを、僕はしばらく見つめ、やがて帰路へと歩み始めた。何か一言、サチコさんの後姿へ声をかけられなかったのだろうか・・・。鞄の取っ手を強く握り、僕は喉まで出ていた優しい言葉を、苦い後悔で流し込んでいた。

    さようなら、サチコさん。三度目に会うことは・・・あるのでしょうか。




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    ■2006/08/13(日) ケツエキガタ

    「血液型は何型?」
    手探りでお互いに会話を探している時、よくこんなことを聞かれる。

    「ああ、やっぱり。」とか、「そうだと思った。」というステレオタイプの感想を聞いて、話はそこで終わるのだが、僕は胸中でこっそりと、疑問を抱き続けていた。

    僕の血液型は後で書くとして、ちょっと血液型について、信じないというスタンスで、僕なりに考えてみた。

    A型が几帳面で、B型は楽天的・・・?だっただろうか。あまり気にしていなかったのでO型とAB型の一般的な(?)性格までは覚えていなかったが、そもそも、それらの性格は人が数多く持つ性格を切り取っただけで、几帳面なところを全く持たない人間も、楽天的な意見を絶対に持たない人間も、僕は見たことがない。
    従って、血液型占いは元々とても当たりやすいものなのだ。
    のんびり屋の人でも、A型でしょう?と言われればどこかA型的な性格を探して、
    「そういわれれば、結構神経質なところがあるかも。」
    と、思うことがあるのではないか。


    また、こんな例題をあげてみよう。

    ある几帳面な性格の人がいるとする。
    一緒に働くようになって一週間ほどが経った頃。ふと、その人に血液型は?という問いかけをしたとしよう。

    「私は、O型です。」
    と、答えが返ってきたら、あなたは「ああ、そうなんだ。」と思い、

    「私は、A型です。」
    という答えが返ってきたら、「ああ、やっぱり!」と思うだろう。
    ここで注意して欲しいのは、自分が思っていた答えと違って「ああ、そうなんだ。」と思ったよりも、予想通りの答えを得て「ああ、やっぱり!」と思った時の方が、心の動きが大きいということだ。この文章を読んでいるあなたも、そう感じたのではないだろうか?

    つまり、血液型が外れていた時の印象よりも、当たっていた時の印象の方がはるかに大きいのだ。自分が思っていた答えと違っていて、血液型を頭から否定しだす人は少ないが、自分が思っていた通りの答えだったことから、血液型を信じ始める人は多いだろう。

    元々外れにくい性格占いというものが、当たっていた時の大きな感動と、外れていた時の小さな落胆を心の中で何度も足し算引き算しているうちに、人は「血液型占い」を信じやすい考え方になっていくのではないだろうか。

    ・・・とはいえ、これはしょうがないことなのだろう。よくよく考えてみれば、妄信というものは世の中に数多くあるのだし、信じたほうが幸せなのなら、信じたほうがいいことはある。

    そして、信じる人を利用して会話に繋げる僕は、ひょっとしたら一番罪深いのかもしれない。
    今日書いたような考えも、話がくどくなりそうだから初対面の女性には話さない。
    これは、素の僕と仙道という男の、境界線で生まれた戯言でした。何か思うことがあった人は、感想を聞かせてもらえると嬉しいです。

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    ■2006/08/14(月) ヒトミ

    暦の割にはそれほど暑くなっていない外の空気よりも、冷えすぎの店内のエアコンに夏を感じた日。
    僕は、つい先ほど声をかけた女性に、簡単な自己紹介をし終えたところだった。
    彼女の名前は、ヒトミさん。綺麗に染まったメイプルブラウンのロングヘアーと、細く白い指先が、季節を越えた涼しさを醸し出していた。
    僕はアイスカフェオレを、ヒトミさんはアイスティーを飲みながら、いつも通りの「どうしてこんなことをしているの?」といったような質問に答えた後、僕達は肝心の行き先に詰まっていた。

    「折角の機会なんだから・・・何かしたいじゃない?」
    そう言って、僕が提案したカラオケや居酒屋という案をことごとく却下したヒトミさんは、肩にかかった髪の毛を握って、うんうんと唸っていた。上品な服装と外見にもかかわらず、気取るところなく子供の様に表情が変わっていく様は、見ていてなんだか得をしたような気分になる。

    「どこか、行きそびれた場所とかは、ないんですか。普段一人では行けなかったところとか、友達にドタキャンされて諦めたところとか・・・。」
    考え込むヒトミさんに助け舟を出すべく、僕も色々なヒントを出す。

    「行きたかったところ・・・あーっ!」
    閃いたというよりは、何かが破裂したような勢いで、ヒトミさんは自分の膝をぱちんと叩いた。
    「そうそう、あったよ。行きたいところ。」
    「ほうほう。ど、どこですか?」
    嬉しそうに僕を見るヒトミさんに圧されないよう、僕もテンションをあげて返事をしてみる。ちなみに、物事を考え付いた時に膝を叩く人を見るのは、還暦の叔父以外でははじめてのことだった。

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    ■2006/08/15(火) ヒトミ その2

    「ちょっと待ってね・・・」
    と言って、ヒトミさんは大きな鞄を膝の上に置き、手探りで中身を漁り始めた。長く磨かれた爪によってヴィトンの鞄の中から取り出された手帳は、ヒトミさんが着飾る数々の商品に比べるとシックなデザインの革のもので、ラメやシールに囲まれた鏡などに比べると、少し古ぼけたものだった。無意識の所行か、ヒトミさんは手帳から小さなペンをとりだして、下唇に押し当てながら手帳のページをめくっていく。

    「えっと・・・。たしか・・・こ、の、へ、んに。」
    シールの欠片やレシート、その他色々なメモをかき混ぜて、ヒトミさんが取り出したのは、何かの雑誌を切り取った小さな地図だった。
    「よっしこれだ。このお店なんだけどね。前から行きたかったんだけど・・・その、一人じゃちょっと勇気が無くてね。」
    といって、ヒトミさんは僕の方へと雑誌の切れ端を滑らせる。指先が触れないようにその紙を受け取り、内容を読む。
    裏側に何かの写真が写ったその紙には、電車で一本の駅にあるインド料理店の地図と電話番号等が描かれていた。
    「聞いたことない?そのお店。」
    僕は、ヒトミさんの輝く視線を首を振って振り切り、
    「じゃ、ここにしようか。」
    と、良く考えずに言った。小さな記事だったので詳しい内容はわからないが、雑誌に紹介されているのなら、大ハズレはないのだろう。1000円の男をやっていなければ一生縁のなかった店へ行くことができるのが、この活動の醍醐味なのだ。行き先についてどうこう言うつもりは、はじめから全く無かった。
    「うん、いいの?」
    その嬉しそうな笑顔を見て、僕も思わず笑顔で頷く。
    「勿論。今日一日は何でも好きな事を言っていいんだよ。」
    そう言って、僕は携帯電話を開くと、切り取られた紙に書いてある電話番号を調べて、ダイヤルをする。
    「予約制じゃないみたいだけど、一応お店に電話をしてみるね。」
    携帯電話を首に挟みながらそう言う僕へ、
    「あ・・・そか、そうだよね。」
    と、ヒトミさんはまた膝を叩いて同調した。清楚な雰囲気に似合わない、江戸っ子の親父のようなその仕草が、なんだかアンバランスで可愛らしかった。

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    ■2006/08/16(水) ヒトミ その3

    件のレストランが営業しているのを電話で確認した僕達は、つり革につかまりながら、一瞬で流れ去っていく屋根と壁の数々をなんとなしに見ていた。

    「ヒトミさん、座らないの?」
    目的地までの駅の数は片手で数えられるほどだが、たまたま近くの席が空いたので聞いてみる。
    「え、私はいいよ。仙道さんこそ座ってよ。」
    「いや、僕はお年寄りや体の不自由な人に席を譲りたくないから、意地でも椅子に座らないことにしているんだ。」
    「え・・・何それ意味が良くわかんないけど・・・。本当なの?」
    「ううん・・・全くの嘘だよ。」
    「あはは。でも、席を譲りたくないっていうのは、わかるかも。」
    口を隠して、ヒトミさんが上品に笑う。

    「私はね、中学生くらいの時すごく太ってて、席を譲られたことあるんだよ。」
    「へぇ・・・。全然そんな風には見えないけど。」
    そう言って、僕はヒトミさんの体を見ないように、目線を合わせる。こんな会話の後に、見られていると意識するのは、あまり気分がいいものではないだろう。
    「満員電車で汗かいてて・・・具合が悪そうに見えたのかな。知らないお兄さんに席を譲ってもらったんだけど・・・それが結構格好いい人なの!なんか、逆にショックを受けちゃって。それから、ダイエットを頑張る!って決意したくらいだもん。」
    「おお、それで痩せたのかー。凄い凄い。本当の話だよね?」
    「いやいや、仙道さんじゃないんだから、嘘なんてつかないよ!」
    「そ、そうだよね・・・ちょっと傷ついたけど、そりゃそうだ。」
    「あはは。傷ついた?」
    「いや、嘘です。全く傷ついてない。ちょっと胸がキュンってなっただけ。」
    「え、え・・・キュンって、恋心の音じゃない?」
    「うん。甘酸っぱい高校生時代を思い出した。」
    「高校時代かぁ。いいね、またやりたいなぁ。楽しくて、あっという間に過ぎちゃったよね。」
    「まぁ、男子校だったんだけどね。」
    「え、そうなの?それじゃ甘酸っぱくなくない?合コンとかしたの?」
    「してない。良く考えたら酸っぱいだけだったかも。」
    「甘いところないんだ・・・。って、そりゃそうだよね。」
    「酸っぱい体育、酸っぱい修学旅行、酸っぱい放課後の屋上・・・。」
    「女子高に行った友達は、それなりに楽しそうだったけどなぁ。男子校は酸っぱいのね。」

    そう言って、ヒトミさんは人差し指を頬にそえる。
    「女子高とは、見た目の華やかさが違うね。パンツ一枚で廊下を歩く男子高校生達に囲まれて、楽しいと思えるほど大人じゃなかった。」
    「そ、そっかぁ。それは辛いかもね。あ、次の駅だね。」
    「なんだか、胸が酸っぱくなってきたけど、料理食べられるかなぁ・・・。」
    「辛いもの食べれば大丈夫じゃない?」
    (電車のドアが開く。僕達二人はホームに降りてすぐ、左右を見渡して人の流れから離れる。)
    「さて、何口だっけ?」

    ちょっと趣向を変えて、会話メインの描写にしてみました。普段文章を書いている僕とは印象が違うかもしれませんが、大抵はこんな軽口を叩いています。


    男子校、女子高で青春を無駄にしたという方は応援のクリックをしてくれると嬉しいです。




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    ■2006/08/17(木) 閑話

    mixiをやっています。
    何をすればいいのかがわからないのが、目下の悩みです。
    登録などはご自由にどうぞ(承認には多少時間がかかるかもしれません)。

    扇風機では限界に近づいてきました。応援のクリックをしていただけると、嬉しいです。




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    ■2006/08/18(金) ヒトミ その4

    やがて、僕達は目的の駅に降りて、同じ歩調で歩き出す。
    地図を見ながら、町を見ながら、目印となる建物を探しながら、僕はこんな友達のような雰囲気で手を繋ぐべきなのだろうか、指先が触れたら繋いでみようか・・・などと、つまらない欲望を正当化する理由を考えながら、ヒトミさんのペースに合わせてゆっくりと歩いていた。女性が1000円の男を求める形は色々だが、今ここで手に触れたら、その後ヒトミさんからどんなリアクションがあろうとも、今の友達のような雰囲気は崩れてしまうだろう。

    手を繋ぐことは彼女の思い出にはなるかもしれないが・・・そんな危険を冒してまで、親密になるべきなのだろうか?それとも、手を繋ぐことは当然のように期待されていて、僕はもう遅すぎるくらいなのだろうか?素直に聞くタイミングを逃してしまった事を悔やみながら、僕はぐるぐると同じ問いを頭の中で繰り返していた。

    少し考えた後、僕の他愛のない話にお腹を抱えて笑うヒトミさんを見て、僕は心の中で今日の方針を決めて、宙ぶらりんだった右手をポケットに入れた。今日は、これでいいか。何にせよ、望みを持つのは僕ではなく、女性の方なのだ。明るい会話に少し甘えそうになった自分を反省し、心の紐をきつく結びなおす。

    二回ほど迷った挙句についたレストランは、そんな決意を揺らがすように、暗い店内にキャンドルが灯され、ムード満点の店だった。
    気軽に仲間内で集まる場所ではなく、カップルが口コミで聞きつけた、デートコースのチェックポイントというコンセプトなのだろう。見事なほどに男女比が揃ったテーブルの森の中、僕達は給仕を待っていた。

    微かに甘い香の匂いにアジア楽器の緩やかな旋律を混ぜた、伸びやかな喧騒と混沌を、ヒトミさんは気に入ったようだ。僕はといえば、給仕に案内されるがままに席へと着き、キャンドルの火を大きな黒い瞳の中に映し、わくわくしながらメニューを開くヒトミさんを見ただけで、半ば満足していた。

    「あ、サラダの種類が多いんだー。この大根と梅のサラダって美味しそう。」

    あまり食欲がなかった僕はメニューを見る気になれず、テーブルに置かれた水の入ったグラスを傾けたり、中の水を通してヒトミさんを見たりして時間を潰していた。

    「・・・なに、やってるのよ。頼みたいものは決まった?」
    グラスの中で少し丸くなったヒトミさんが、ふと僕の視線に気付いて、言った。

    デートコースのレストランに困っている人は、クリックをしていただけると嬉しいです。




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    ■2006/08/20(日) イノリ

    「~とかする人、絶対許せない。」
    そう呟かれた言葉が空へ溶けていくのを、僕は見送るしかなかった。

    僕はできることなら、許せないという言葉は使いたくない。

    今日、その人を許さないのは、しょうがないことだ。僕にだって、そんな人はいる。

    ただ、将来許せるかもしれない自分になることを、今、否定するのは、ちょっと可哀想なことに思う(可哀想というのは、今日のあなたに存在を否定されている、将来のあなたのことね)。

    願わくば、可能性を秘めた人生を。そう、自分の為に祈ることがあっても、いいのです。





    01:20 | トラックバック(0) | コメント(0) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/08/20(日) ヒトミ その5

    「いえ、別に。僕はあんまりお腹が減っていないので、ヒトミさんが好きなものを頼んでください。僕はその顔を見て、貰うかどうか判断しますから。」
    「あ、おなか減ってないんだ。っていうか、それって私が毒見するってこと?」
    「まぁまぁ。すっかり忘れて、梅のサラダを頼んでよ。」
    「う、うん・・・じゃ、注文しようか。忘れてないけど。」
    僕は手を上げて、給仕を呼ぶ。やけに声とテンションが高い給仕が、颯爽と現れて注文を聞きに来る。
    「仙道さん、本当に頼みたいものないの?」
    そう聞くヒトミさんへ目を瞑って頷くと、僕は給仕さんを見て、ヒトミさんの方へ行くように促す。ヒトミさんは開いたメニューを指差しながら、聞きなれない名前の料理をいくつも頼んでいた。

    「たくさん頼んじゃった。仙道さんも、ちゃんと手伝ってよ?」
    確かに、普通は一人では食べきれないであろう量だ。僕は自分の胃袋の状態を確認して、苦笑しながらその言葉に頷く。

    ふ忘れないうちにと、僕は鞄の中からここまで来るのに使った地図を取り出して、ヒトミさんに返そうとする。
    「あ・・・うん。ありがとう。」
    少し戸惑ったように、ヒトミさんはしわくちゃになった地図を受け取る。
    「役に立つ時が来て、よかった。」
    手に持った地図をじっと見て、ヒトミさんはどこか寂しそうに言う。口元は飾られたような笑顔だったが、その目は笑っていなかった。
    「昔、好きだった人と一緒に行きたくて、取っておいた地図なんだ、これ・・・。って、こんな女、引く?」
    頑張って冗談っぽくしようとするヒトミさんの言葉を、僕は真剣に受け止めて頭を振る。
    「そか、良かった。・・・でも、もうここの場所覚えたから、この紙も捨てなきゃ、ね。」
    「うん、あなたがそうしたいのなら、それもいいね。」
    僕の言葉を若干、上の空で聞いて、ヒトミさんは頷く。
    「うん・・・。ねえ、このキャンドルで燃やしちゃダメかな?」
    そう言って、ヒトミさんはつまんだ地図をヒラヒラと目の前で躍らせる。その目は、再び元気を取り戻していた。
    「料理を食べないうちに追い出されても、知らないよ。」
    「あはは。じゃ、食べてから考えようか。」

    二人で笑っているところへ、先ほどの給仕がカツカツと革靴を鳴らしてサラダを持ってきた。

    「お待たせしました。サラダです。」
    「あ、はーい。」
    そっとテーブルの下に手を隠して、ヒトミさんは食器を取り始める。おそらく、先ほどの地図はポケットに入れたのだろう。

    手帳になんとなく捨てられないでいる思い出を入れている人は、応援のクリックをしていただけると嬉しいです。
      

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    ■2006/08/22(火) ヒトミ その6

    「なんか、あの人ホストの人みたいだね。」
    次々と運ばれる料理を機嫌よくほおばりながら、ヒトミさんが言う。あの人とは、先ほどから何度か料理を運んでくる給仕のことだろう。容姿もそうだが、大きな声と明るい笑顔が、接客業のプロを思わせる。
    「そうかもね。ホストクラブには行ったことないけど・・・仕草とかが、ホストでもやれる人かもね。」
    「うんうん。仙道さんも、今度ホストクラブに行って研究してみたら?」
    「うーん・・・考えておきます。ホストクラブに行きたい人が大多数だとは、まだ思えないので。」
    「そっかー。でも、煙草を口にくわえたら、条件反射で火をつけに来る男の人って、なんか嫌だなぁ。」
    「そうだね。自分は吸わないのに、そんな癖がついたらちょっと怖いね。」
    などと話しているところへ、次の料理がきた。明らかにヒトミさん一人では食べきれない量に、僕も覚悟を決めて箸を進めることにする。妙に辛かったり、意外に甘かったりする料理を二人で食べている間、口数は自然と増えていった。


    会計を済ませ、レストランを出るころには、辺りはすっかりと暗くなっていた。日は落ちても気温はあまり下がらず、夏の気配が満たされている。レストランを出た後、どこへ向かうでもなく、コンビニの前まで歩いていると、突然ヒトミさんが僕の前に立ちはだかった。
    「仙道さん、火。」
    「火?」
    「そう。さっきのホストの話よ。仙道さんも、いざというときに練習したほうが、いいんじゃない?と思って、さ。さぁ、火を貸してもらえる?」
    そう言って、ヒトミさんは鞄の中から100円ライターを取り出して、僕に渡す。ピンク色のライターを握った僕は、煙草を持ってもいないヒトミさんを見て、首を傾げる。
    「いいから、いいから。」
    僕は良くわからないままその言葉に頷くと、ライターに火がつくのを確認して、影を添えるようにヒトミさんに近づく。
    煙草を吸ったことがないので、いまいち勝手がわからなかったが、映画で見たシーンを真似て片手で風を遮り、ヒトミさんの顔の近くまで火をつけずにライターを近づける。

    「こんな感じでいいですか?」
    ヒトミさんは僕の言葉に満足げに頷くと、ポケットの中から先ほどの地図を取り出して、くるくると煙草の様に丸めた。
    「火、つけて。」
    ようやくヒトミさんのしたいことが理解できた僕は、ヒトミさんの目を見ながら、100円ライターに火をつける。
    人差し指と中指で挟んだ地図に、そっと触れるだけのキスをすると、ヒトミさんは小さく燃える火の中へ、丸めた思い出を差し込んだ。

    新聞紙のような乾いた紙にはすぐ火がつく。それをヒトミさんが見つめていたのは、2,3秒ほどだっただろうか。どこか冷めたような目で、半分ほど燃えた紙を水の入った吸殻入れに入れると、
    「さ、行きましょうか。」
    と、表情を切り替えて僕へ言った。そのあまりにサバサバした表情に、「やっぱり、女性は強い」なんていう妙な感想を持ったのは、ほんの数分間だけのこと。
    角を曲がった時に、ヒトミさんの方から無言できつく繋がれた手は、なにか掴まるものを、強く欲しがっていた。僕はそんなヒトミさんの顔をあえて見ないように、しっかりと強く握り返し、暗く濁った空を見上げた。少し曇った都会の空には、雲は見えても星は見えなかったが、赤く燃え上がった、さきほどのライターの炎の残滓だけが、街のどんなネオンよりも深く、目の奥で輝いていた。

    さようなら、ヒトミさん。今度は素敵な思い出を作ってくださいね。
      

    15:40 | トラックバック(0) | コメント(2) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/23(水) カチ

    ネット上でたまたま見つけたので、やってみました。私のblogの値段。


    My blog is worth $28,227.00.
    How much is your blog worth?




    ココで計算をすると、日本円にしておよそ320万円だそうです。

    筆者の価値は1000円なのに、大層な値段をつけていただきました。ただ、このサイトが私のページの内容を理解しているとは、ちょっと思えないのですが・・・。
    「どうせ、1000円でなんでもするんだろ?」
    と、買い叩かれなくてよかったです(笑)。

    ちょっと息抜きになったという方は、クリックをしていただけると励みになります。
      

    20:41 | トラックバック(0) | コメント(10) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/08/24(木) アカネ

    「今晩は。もしよければ、今日一日、僕を1000円で買いませんか?」
    歩いているだけで背中に汗が伝う。前日に降った雨のせいで、少し暗くなりかけた街は溺れるくらい湿度が高かった。

    高温多湿な日曜日、道行く女性達もイライラとしていたのか、それとも僕の顔にカビでも生えていたのだろうか。艶やかに肌を露出して街を飾る女性達は皆、僕に一瞥もせずに道を急いでいた。

    数人に連続で断られ、ちょっとぐったりとしてきた僕は、ペットボトルを空にしながらTシャツの襟に指を差し込み、少しでも風通しをよくしようと仰いでいた。
    すると、不意に飛び込んできたウッドベースの低音が、重くなったTシャツの生地を揺らした。

    汗をぬぐいながら音のした方を振り返ると、まだまだ人通りが溢れる路上で、ドラムセットやギター、管楽器をセッティングしている人達がいる。ジャズ・・・だろうか。楽器にはあまり詳しくないのだが、遠めで見て、そんな気がした。

    このまま汗をかいて駆けずり回るより、まずは演奏を聴いて帰るか続けるかを決めようか・・・そう思った僕は、早々に収穫のない「1000円の男」を切り上げて、見やすい位置で腰掛けられる場所をキープし、彼等がチューニングや指慣らしをするのを見ていた。

    ちょっとトラブルなアカネ編がスタートです。クリックをしていただけると、更新の励みになります。
      

    23:59 | トラックバック(0) | コメント(4) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/26(土) アカネ その2

    僕が特等席を陣取っている間、バンドのメンバー内では殆ど会話が交わされることなく、楽器のセッティングが続けられた。彼等が手馴れた様子でステージを作っていくのを見ながら、僕は鞄からポカリスエットを取り出して、汗を補っていた。

    やがて、一瞬だけ合図のまばたきが交差しただろうか。力強いドラムから始まった演奏が流れ出すと、駅前の空気のボルテージは上昇気流に乗った凧のように一気に高まった。

    電圧と熱風が入り混じる演奏は、老若男女を問わず通行人の足を掴み、あっというまにちょっとした人だかりを作ってしまった。リズムを取るスーツの男性、写メールを撮るカップル、光る携帯に気付かないまま、演奏に聞きほれる女性。様々な人たちを空気の薄い夢のような情熱の流れへと吸い込んで、曲順は進んでいく。
    客が少し疲れたところで、ゆったりとしたナンバーをかけたり、少し人が減ったところでアップテンポの曲を流して足を止めたりと、彼らはストリートに適したスタイルで、彼等のパフォーマンスを実行していた。

    途中、
    「通行の妨げになるので、もう少しだけ前に来てくれますか。」
    といった発言や、簡単なメンバー紹介はあったものの、MCらしいMCは挟まれず、突然「一旦休憩します」とだけ伝えられて、演奏は中断された。

    バラバラと散っていく見物客をよそに時計を見ると、演奏開始から既に一時間近く経っていた。日が長いので気付きにくかったが、一度ゆっくりと目を閉じると、再び目を開けた時の街並みの暗さに驚かされた。

    少し痛くなってきたお尻を擦りながら、僕はこの後の行動について思案をする。「1000円の男」をするのなら、そろそろ声をかけ始めないと、例え女性と出会うことができても何も出来ずに終わってしまうという事態になる可能性がある。

    とはいえ、彼等の演奏レベルは素晴らしいものだった。
    季節柄、屋外で演奏を聞いても肌寒くなったりしないので、まだまだ演奏を聴く気力は十分に残されている。

    「1000円の男」をとるか、再び演奏に酔いしれるか・・・。
    頭の中で浮かぶ悩ましい選択肢を消したのは、僕に話しかけた、アカネさんの一言だった。

    ストリートミュージシャンに足を止めたことがある人は、応援のクリックを(とはいっても、ミュージシャンではなく私宛ですが)してくれると、嬉しいです。
      

    00:13 | トラックバック(0) | コメント(5) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/27(日) アカネ その3

    「ここ、いい?」
    横から話しかけてきたのは、異文化といいたくなるくらい短いスカートと、ビーズが散りばめられた黒いTシャツを纏い、深く帽子をかぶったアカネさんだった。
    チラリと目線を合わせて、無言で頷いた僕は、脇に置いていた鞄を地面に降ろし、人が座れるくらいのスペースを空ける。
    軽く会釈をした後、アカネさんは僕の隣に座って自分の荷物をスカートの上に乗せ、バンドが次の演奏をするの待っているようだった。
    席を譲ったのはいいものの、アカネさんが座ったことによって、少し場所を手狭に感じた僕は、携帯の時計をチラチラと見て、適当な時間になったら場所を離れようかな・・・と思っていた時のことだった。

    「あなた、さっき声をかけてくれた人だよね。」

    横から突然聞こえたアカネさんの一声で、僕はその場に釘付けになった。
    僕は人の顔をおぼえるのは得意なほうではないが、今日声をかけた女性の区別くらいは、つく・・・と思っていた。

    僕は、まじまじとアカネさんの顔を見て、必死に顔を思い出そうとする。今日は後姿にばかり声をかけたから、顔がわからないのかもしれない。そう思いながらも、全く心当たりのない目の前の女性に、困惑をしていた。


    ちょっと短くてすいません。叱咤激励の意味をこめて、応援のクリックをしていただけると嬉しいです。
      

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    ■2006/08/28(月) サッカ

    以前質問があったので。

    僕には、特に好きな作家さんはいません。


    はるか昔の少年時代、いわゆる活字中毒だった僕は、ジャンルを問わずに、ただひたすら読むという行為にのみ溺れていました。図書館に行っては「たった今返本された本」という棚から右上にあった本を何冊か取り出して、それを読んで一日を過ごすという毎日です。
    一度読んだ本でなければ、「地球の歩き方:イタリア旅行」でも「分子生物学入門」でもかたっぱしから読むという私は、良くも悪くも読書のジャンルが偏りませんでした(読んだ本を理解していたかは、また別として)。

    食事中は醤油のラベルを、電車に乗るときは中吊り広告を、車に乗ればずっと標識を読んでいる子供で、国語の授業中には、近眼で一番前の席だったにもかかわらず、とっくに読み終わった教科書をいつまでも読み続けるのが苦痛で、辞書を最初から読みふけるという、先生泣かせの生徒でした。今は昔ほど活字中毒はひどくないですが、片っ端から色々な人のブログのトップページを読み漁ったりする妙な癖は、その時のなごりでしょうか。

    幸い、小さな図書館が近所にあったので、遠足のバスが人一倍苦痛なこと以外は、幸せな少年期を過ごしましたが、人の名前を覚えるのが苦手なので、読書が好きな友人に「○○さんの○○って本は読んだ?」と言われても、実際に読んだか忘れているのが、もったいないといえば、もったない話でしょうか。

    そんな僕は、読むことについては人一倍修練していましたが、書くことということに没頭する機会は、あまりありませんでした。このブログを始めたころに、記事の書き方に四苦八苦していたのも、今となってはいい思い出です。

    よくある話ですが、忘れたころに、このブログの最初の方とかを読み直してみると、自分の書き方の癖や特徴が客観的に発見できて、面白いです。

    自分の文章と、好きな作家さんについて質問があったので、それについてのお話でした。

    私も活字中毒!という人がいましたら、応援のクリックをしていただけると嬉しいです。
      

    23:58 | トラックバック(0) | コメント(5) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/08/29(火) アカネ その4

    「人違いじゃないですか?」
    少し警戒しながら、そう答える僕にアカネさんの視線は冷たかった。
    「とぼけないで。さっき、1000円でなんでもするって言ったじゃない。」
    ・・・どうやら、人違いではないようだ。とはいえ、僕は相変わらず目の前の女性の声、髪の長さ、スタイル全てに見覚えが無く、混乱したままだった。
    「やらないの?嘘だったの?」
    眼光鋭く詰め寄るアカネさんを目の前に、僕は選択を迫られた。

    ちょっと強引な印象があること、顔を覚えていないこと。総合すると、アカネさんとの出会いにはあまりいい予感はしなかったのだが、普通にしていたら起こらない事を体験するのが、1000円の男の本懐だ。それと、僕は今まで1000円の男に大きなトラブルが起こらなかったことに少しだけ自惚れていたのかもしれない。大して真剣に考えず、天秤にかけられた量りは、なんとかなるだろうという「YES」だった。

    「わかりました。それじゃ、ルールを説明しますね。」

    そう言って、僕はアカネさんの名前を聞いてルールの説明を始める。

    「ふーん、法律に触れないこと・・・ね。わかったわ。じゃ、行きましょ。」

    ルールの説明を聞き終わったアカネさんは、そう言って、勢いよく立ち上がった。どうやら、ジャズの続きには興味が無いようだ。僕も地面に置いた鞄を持ち、後を追って立ち上がる。並んでみてわかったのだが、アカネさんはかなり背が高い。僕より少し低いくらいということは、175位だろうか。典型的な優男の僕に比べ、スポーツをやっていたのだろうか、日に焼けたアカネさんは体格もよく、口をきつく結んだ固い表情と合わせると、女性ながらかなりの威圧感があった。

    「どこか、行きたい場所があるんですか?」
    そう問う僕の方を殆ど見ずに、アカネさんはポツリと
    「後、私空手やってるから。」
    と呟いた。
    「・・・え?」
    「背はあなたの方が高いみたいだけど、なんかあったら容赦しないからね。」
    返答に戸惑う僕を敵対視するように、刺々しい言葉が投げつけられる。少なくとも、これからどこかでデートをする人に対する期待や高揚感は欠片も見当たらない、厳しい表情だった。

    一体、この女性は僕に何を求めているのだろう?

    疑問と困惑が、僕の頭に広がっていた。


    いつもコメントとクリックありがとうございます。とても励みになっています。
      



    23:50 | トラックバック(0) | コメント(6) | オモイデ | Page Top


    ■2006/08/31(木) アカネ その5

    「・・・それで、どこか行きたい場所とかはありますか?」
    恐る恐ると、僕が聞く。あまり下手に出るつもりはなかったのだが、虎の様に光るアカネさんの目を見れば、いつかフランクな冗談をいえる様になるのは、街の中をエアカーが走るようになるまで待たなければいけないような気がしていた。

    「行きたいところ!?」
    厳しい表情を崩さずに、アカネさんが言う。最初からこうも不機嫌では、もはやお手上げのような気がするのだが、僕はゆっくりと目を見ながら頷く。
    「まずは喫茶店とかでゆっくり話をするのが、よくあるパターンなんですが・・・。」
    「よくあるパターンねぇ・・・。それじゃ、喫茶店でいいよ。じっくり話しましょう。」
    その言葉に頷くと、僕は成績が落ちた後の三者面談のような暗澹とした気分で、トボトボと喫茶店へと向かう。

    店に入る前、アカネさんが通るためにドアをあけても、アカネさんから笑顔はこぼれず、席に着くまではずっと無言のままだった。

    別々に会計を済ませ(ルールとは違いますが、言い出せませんでした・・・すいません)、二人とも席に着いたところで、僕は道を歩きながら思っていた疑問をアカネさんにぶつけようと、口を開く。
    「一つ、いいですか。」
    「なに。」
    短い言葉に、力がこめられていた。台風の中のリポーターの様に風圧に耐えながら、僕は言葉を続ける。

    「以前、僕と出会ったことがありますか?」
    「・・・なんで?」
    「あなたが、ずっと不機嫌だから。最初から不機嫌な気分なら、さっき僕に対して話しかけるのは変じゃないかな、と思って。つまり、僕の事を知っていて、僕に怒っているんじゃ?って思ったんです。」
    思い切った発言だったが、重い空気を打破できるのかも・・・という希望に耐え切れずに、言ってしまった。表情を伺うように、僕はアカネさんを見る。健康的に焼けた肌、黒いTシャツを盛り上げる、いかり肩。アクティブな性格を現す体に反して、アカネさんの表情が初めて曇った。
    「ねぇ・・・。」
    「はい。なんですか。」
    「ちょっと、トイレ行ってくるね。」
    そう言って、アカネさんは携帯電話を持っていそいそと席を外した。僕の返事など、頭にはないようだ。
    なんだかんだで可愛いストラップがついているアカネさんの携帯電話を目にして少し驚きながら、僕は今後起こりうる出来事を頭の中で予想し続けていた。


    昨日は原稿を書く前に、少しベッドで横になったら寝てしまいました・・・。
    モチベーションのために、コメント・クリックをお待ちしております。
      



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