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仙道緑(1000円の男)
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  • 「1000円の男」の、断片的な思い出。登場人物の名前は、すべて仮名です。
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    初めて来た人は、ルールをご覧下さい。

    不快な表現や、表現不足で忌諱に触れることもあると思いますが、何卒ご容赦下さい。

    また、当blogはリンクフリーです。是非、気軽にリンクしてください。

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    ■2006/04/02(日) ルール

    ○一日1000円で、声をかけた女性の望むことをする(犯罪や、どうしても無理なことは除きます)。

    ○食費や諸経費は女性持ち。

    ○期限は終電の時間か、女性が終了にしたいと思ったとき。

    ○相手から言ってこない限り、体には触れない。セックスもしない。

    ○出張はしません。予約もできません。

    こんなルールで、街中の女性に声をかけています。

    ※登場人物の名前はすべて偽名です。

    また、当ブログはアダルトブログではありません。
    直接的な性の描写はしないつもりです。アダルト系のトラックバックはご遠慮ください。
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    ■2006/04/02(日) カナコ

    「うーんと、じゃぁカナコって呼んで。」
    名前を聞かれたとき、OL風の女性はそう答えた。「名前はカナコ。」ではなく、「カナコって呼んで」と言うのだから、おそらく偽名なんだろう。

    僕としては、その日一日の相手の呼び方がわかればなんでもいいのだが、スラっと偽名が出てくる女性は結構、稀だ。

    化粧や服装が派手じゃないし、髪の色も落ち着いていたので、大人しい人だと思いながら声をかけたのだが、声や視線からは快活という印象がよく合う。どうやら、見当が外れたようだ。

    「じゃ、まずはドトール入ろう?」
    首を少しかしげながらすぐそこに見える喫茶店を指差すと、カナコさんは先に歩き出していた。

    「何でこんなことしてるの?」「仕事とかはしてるの?」
    お決まりの質問をかわしていくと、薄いピンクのソファにゆったりと背を預け、ふーんと呟いた。彼女の中で僕がどう解釈されていったのかわからないが、そう悪い印象ではなさそうだ。こういう質問をされるのは馴れているので、テンポよく答えていた。

    ある程度雑談が進んだころだった。
    「私もね、高校生の時、家出したこと、あるんだよ。」
    伏し目がちにカフェオレに刺さっているストローをかき混ぜながら、彼女はボソっと言った。今までの雑談で纏っていた明るさが急に消えたので、おやっと思ったが、自分から話をしてくれるのはある程度心を開いてくれた証拠なので、ゆっくり頷いて、話を促す。

    「高校生の時ね、お兄ちゃんがどうしても嫌で、出てきちゃった。最初は友達の家に泊まってたんだけど、男の人とホテルに入って、ホテル代出してもらったりもしたよ。」
    初対面の僕にだからこそ言いたいことなのだろう。何も言わず、ただ頷く。

    「誰も、お兄ちゃんの事をわかってくれようとしなかったし、私はきっと見てみぬ振りをされてたんだと思う。」
    ・・・と、そこで話が止まった。断片的な話ばかりなので想像するのは難しいし、あまり意味がない。ただ、僕は話を聞いていた。

    13:19 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/07(金) カナコ その2

    「ねぇ」
    少しの沈黙の後、口火を切ったのは、やはり彼女だった。
    「ん?」
    首を少しかしげて返事をする。
    「Hとかも・・・するんだよね。」
    辺りを軽く見回して、身を乗り出して小声で訪ねてくる。目は真剣そのものだ。
    「うん。するよ。そっちが言ってこない限り、そういうところには入らないけどね。」

    「そっか・・・。ねぇ。」
    「ん?」
    話の流れからして、くるのかな?と思った。声をかけた女性とホテルに入るのはそう多くないが、別に少ないわけでもない。カナコさんがそう言い出しても、全く驚かない。僕は、1000円で買われたのだ。断る理由も権利もない。
    「・・・」
    期待が半分、緊張と不安が半分で、彼女の言葉を待つ。

    「もし、私みたいに、家出している子と出会って・・・ホテルに行くことになっても、なるべくならHしないで欲しいの。」
    思ってもいない言葉だった。
    「向こうから誘われても?」
    そういうと、困ったように彼女は考える。
    「いや、こんなこと言っても、どうしようもないのはわかってるんだけど・・・ね。」
    そういって、ほとんど減っていないカフェオレをかき混ぜる。
    「私が・・・昔ね、そういうことがあって。自分から誘って、ホテルに入ったのに、それでも・・・なんだかとても悲しかったから。」
    「そっか・・・。わかった。約束するよ。」
    僕が答える。そういうと、ちょっと驚いたようにこっちを見る。その目は、フィルターを通さない、素の表情を見せてくれた。
    「うん・・・ありがとう。」
    安心したように笑って、カナコさんは言った。僕が約束を守るかどうか、彼女がどれくらい期待しているかはわからない。ただ、「約束」という言葉を彼女が大切に思っているのが、僕にも嬉しかった。
    過去、カナコさんにどんなことがあったのか、僕にはもう知る術はない。けど、人の約束を素直に信じられるのなら、なんだか、今の僕はほっとする。

    24時を過ぎてしまえば、僕は1000円の男の契約が切れた、ただの平凡でつまらない男だ。カナコさんとの出会いもそれで終わりになる。
    個人的にそうルールを決めたのだが、たまには24時を超える例外があってもいい。

    まだ見ぬ(おそらく、どことなくカナコさんに似た)家出少女へ、約束はまだ生き続けている。

    さようなら、カナコさん。

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    ■2006/04/07(金) ユキ

    ユキさんと喫茶店に入った時のこと。先にドアに手をかけて、彼女が店に入るのを待っていると、不思議そうな顔をする。

    「わたし、人にドア開けてもらったの初めてかも。」

    それほど意識していなかったので、逆にこっちが驚いた。男運が悪かったのか、それともそんな男は少数派なのか。
    「光栄です。」
    そう言うと、彼女はちょっと恥ずかしそうに首をすくめた。

    さようなら、ユキさん。素敵な男性と出会ってくださいね。

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    19:31 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/08(土) トモエ

    「本当に何でも言うこと聞いてくれるの?」
    ショートカットの女の子は、何かをひらめいたかのようにピタッと立ち止まると、僕に聞き返した。
    「まぁ、犯罪とかじゃなければね。ただし、諸経費はそちら持ちでね。例えば、ボーリングやカラオケに行ったら、お金はそちらが払うルールだよ。」
    うーんと唇を尖らせて、少し彼女は思案を巡らせているようだ。
    「ちょっと、友達に電話していい?」
    「・・・いいけど。」
    正直を言うと、あんまりよくない。まだ遭遇したことは無いが、こんな事をしている以上、美人局は用心すべき危険だ。

    「もしもし?ユミ?今、暇?○○駅にいるんだけどさ、暇なら来てよ。」
    とりあえず、かけた相手が女性であることに胸を撫で下ろす。

    「今電話した子ね、ユミっていうんだけど、美容師の卵なの。」
    トモエさんは、電話を切ってから、こっちに向き直って楽しそうに言った。動作の一つ一つに笑顔がついていて、可愛らしい。幸せの種を自分で作れるのだろうな、なんて思う。
    「なるほど。ユミさんは美容師の卵ね。で、そのユミさんを呼ぶって事は・・・?」
    職業(?)柄、色々な職の人に会ったが、美容師の卵さんは初めてだ。
    「そう!ユミね、女の子の知り合いは多いんだけど、男の人の髪はあんまり切る機会が無いっていうから、モデルになって欲しいんだ。」
    モデルとは言っても、体のいい実験体では・・・?と、断る事もよぎったが、仮にも美容師の卵なら、そうおかしな事にはならない・・・と思い直し、言葉を飲み込んだ。考えてみれば、こういう予想のつかないことを体験するために、僕は「1000円の男」をやっているのだ。
    ・・・第一、既にユミさんを誘う電話はかけられている。

    雑談の途中も嬉しそうにメールをするトモエさんを見ながら、いつも使っているドトールでユミさんの到着を待っていると、30分ほどでドレッドヘアーの女の子が颯爽と到着した「ユミは格好いい」とトモエさんが言っていたが、確かに絵になる雰囲気を持っている子だ。トモエさんの向かい席に座る僕を見て、一瞬怪訝そうな表情を見せる。
    「こんにちはー・・・。トモエ?」
    僕の会釈を受けた後、説明を求めるようにトモエさんに視線を渡す。

    「ユミ、男の人の髪切りたいって言ってたじゃん?モデルになってくれる人、見つけたよ。」

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    22:15 | トラックバック(0) | コメント(4) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/11(火) トモエ その2

    「・・・はぁ。」
    明らかに訝しげなユミさん。天真爛漫な感があるトモエさんと比べて、ユミさんは慎重だ。まぁ、無理も無いだろう。僕だって同じ状況になったら、そんなリアクションを返すだろう。
    「で、この人は誰なの?トモエとどういう関係?」
    ユミさんの質問には僕が答える。トモエさんとは初対面である事、自分が1000円の男で、時間が来るまで、トモエさんのして欲しいことをする事。
    「・・・はぁ。」
    今度は、ため息だ。(またトモエが厄介ごとを仕入れてきた)とでも言いたそうな視線が、僕とトモエさんに注がれる。
    「わかったわ。せっかく着たんだし、ここまできて断るのも悪いし・・・切るわよ。で、場所はどこにするの?」
    トモエさんのマンゴージュースを一口飲んでから、覚悟を決めるように、ユミさんは言った。

    トモエさんは女子寮なので僕は入れない。ユミさんは自分の家に僕を入れたくない・・・ということで、結局髪を切る場所はラブホテルということに決まった。
    「そっか。お風呂あるから、髪の毛も切れるんだね。便利だね、ラブホって。」
    僕も同感だが、ユミさんがあまり楽しそうではないのを見て、トモエさんに頷くだけにしておいた。ユミさんは当初ラブホテルを使うことに一人反対していたが、他に案が無いから、渋々納得した(させられた?)のだ。

    コンビニで飲み物を買った後、物言いたそうなラブホテルのフロントの視線を三人で突破する。部屋に入ると、トモエさんがベッドにばたんと倒れ、足を伸ばす。ユミさんもその隣にカバンを置き、ベッドに腰掛ける。
    「じゃ、先にシャワー浴びてきてよ。こっちも準備しておくから。」
    そう言って、大きなカバンを開ける。渋谷にある専門学校から直行で来たので、道具は一式そろっているという。

    僕は素直に頷くと、脱衣所で服を脱ぎながら、洗面台の鏡を見る。最後に散髪に行ったのは一ヶ月ほど前だったか。本来の自分のペースだと、まだまだ切る時期ではない。今朝家を出るときは、まさか髪を切ることになるとは思ってもいなかった。「1000円の男」をやっていると、つくづく、想像がつかないことが起こる・・・。それが少し嬉しくて、後ろ髪の伸び具合を満足げに確かめてから、シャワーを浴びる為に浴室へ入る。

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    17:39 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/13(木) トモエ その3

    シャワーを浴びて、浴室で服を着ていると、トモエさんの歌声が聞こえてきた。備え付けのカラオケで歌っているのだろう。

    「あがったよ。」
    そう言って部屋に入ると、ユミさんが立ち上がる。
    「部屋の中で切ったらホテルの人が大変そうだから、浴室に入ろうか。」
    と言って、カバンを持ち上げる。

    まだ湯気と温もりの残る浴室に入り、シャワーで濡れたプラスチックの椅子を軽く拭いて座ると、ユミさんは馴れた手つきでバスタオルを僕の首にまく。
    「苦しくないですか?」
    流石、様になっている。将来のユミさんの姿が少しイメージできて、嬉しくなる。
    「ええ。大丈夫です。」
    「・・・なんで笑ってるの?」
    「いえ。なんでもないよ。お願いします。」
    知らぬ間に頬が緩んでいたのだろう。リラックスしている僕の表情に比べ、ユミさんの顔は真剣そのものだ。
    トモエさんも一緒に浴室に入ってきたのだが、少し僕たちを見た後、ふんふんと何かを納得したかの様に部屋に戻っていった。まだ、カラオケで歌いたい曲があるのかもしれない。
    「で、どういう髪型にしたいんですか? あたしも勉強中だから、そんなに難しいのはできないですけど。」
    と質問され、返答に困る。普段は美容師さんに任せっぱなしだし、まだまだ一ヶ月位は髪を切ることを考えていなかったので、何のプランも無かったのだ。

    「うーん、一応会社員なんで、あんまりエキセントリックな髪型はダメですけど、ユミさんの好きなようにしていいですよ。ただ、どうせ切ってくれるんだから、今と違う髪型にしてみて下さい。」
    「・・・ハイ、わかりました。」
    そう言うと、腕を組んで少し考えた後、ハサミを動かし始めた。
    チャキチャキと金属が重なる音が、部屋の中で静かに響く。
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    15:35 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/15(土) トモエ その4

    「ねぇ、いつもこんなことしてるの?」
    少しの沈黙の後、ユミさんが話しかけてくる。「1000円の男」をやっていると、必ず聞かれる質問だ。
    「そうだね。予定が無い日とかは、大抵この辺で声をかけてるよ。」
    「ふーん・・・。トモエは、ああ見えてちゃんとナンパとかは断る子なんだけどなぁ。今日電話かかってきて、男の人といるって聞いてビックリしたよ。」
    「そうだね。僕も最初に声をかけたとき、スルーされそうになったけど、『一日千円でなんでもするよ』って言ったら、立ち止まって考え始めたよ。それだけ、普段君の事考えてるのかもね。」
    一瞬、ハサミが止まる。

    「そっか・・・。でも、ダメだよね、今日はたまたまいい人だったけど、何があるかわからないもん。」
    「いい人・・・か。そりゃどうも。」
    僕の人生の中で悪い意味で言われ続けた言葉が、今は少しくすぐったい。二人の話なんかも聞いてみたかったが、集中しているようなので、こちらから話しかけるのはやめておいた。

    一時間ほど経っただろうか。
    「はい、できたよ。ドライヤーでセットするから、洗面所いこう。」
    バスルームに髪の毛を多少撒き散らし、僕の散髪は終わった。掃除の人にはちょっと申し訳ないことをしたかな・・・と思う。
    ワックスとドライヤーでスタイリングされていくと、鏡の中に少し若返って活発そうになった僕がいた。彼女には僕がこう見えていたのかと思うと、興味深い。
    「ありがとう。いつも同じ人に切ってもらってたから、なんか新鮮だよ。」
    手際よく片付けをはじめるユミさんにお礼を言うと、嬉しそうに小さく頷いた。
    「トモエー。終わったよーって・・・あれ?」
    部屋の中では、いつの間にかカラオケの音が消えていた。代わりに、ベッドの真ん中にこんもりと布団で出来た山がある。ユミさんが布団をめくると、トモエさんはすうすうと寝息を立てていた。
    「もー。トモエ!起きて!終わったよ!出るよ!」
    ポンポンとトモエさんの肩をたたくユミさん。僕は先に靴をはいてしまったので、ドアの外で待つことにする。
    「お待たせー。あ、さっぱりしたねー。」
    廊下で少し待っていると、二人がバタバタとでてきた。トモエさんが嬉しそうに僕の髪の毛の検証をする。僕もユミさんも、少し照れくさい。
    「さっ、いいから、出よ出よ!」
    そう言って部屋のキーをとると、さっさと行ってしまう。三人で小さなエレベーターに乗ったときも、トモエさんは僕の髪の毛をいじったり捻ったりしていた。僕は別にかまわなかったのだが、ユミさんはそれが恥ずかしいらしく、一番顔を赤くしていた。
    「じゃ、ここで。」
    フロントで料金を払い、ホテルから出ると、ユミさんがそう言った。駅から逆方向の家に帰るようだ。トモエさんもそれについていくらしい。
    「うん。髪の毛、ありがとう。嬉しいよ。」
    そういうと、ユミさんは、うん、と小さく言って踵を返す。トモエさんは、財布を開いて僕に1000円を渡す。
    「今日はありがとうね。」
    「いや、こちらこそ。いい友達だね。」
    そういうと、トモエさんは嬉しそうに笑い、じゃあねと手を振る。僕も手を振り替えしたその時、トモエさんが思い出したように言った。
    「そういえば、エキセントリックってどういう意味?さっき、ユミに知ってる?って聞かれたんだけど・・・1000円さんは知ってる?」

    「うーん、一応会社員なんで、あんまりエキセントリックな髪型はダメですけど、ユミさんの好きなようにしていいですよ。ただ、どうせ切ってくれるんだから、今と違う髪型にしてみて下さい。」



    ・・・髪を切る前に僕が言った言葉だ。ちょっと襟足がヒヤっとしたのは、夜風のせいだけでは、無いのかもしれない・・・。

    エキセントリック【eccentric】
    性格などが普通と著しく変っているさま。突飛なさま。風変り。奇矯。(広辞苑より)

    さようなら、トモエさん。これからもその明るさで素敵な友達を沢山作ってください。

    さようなら、ユミさん。格好いい美容師さんに、なってくださいね。・・・それと、知らない言葉は遠慮なく聞き返しましょう!

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    14:13 | トラックバック(0) | コメント(2) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/16(日) キオク

    「こんばんは。もしお暇でしたら、今日一日僕を1000円で買いませんか?」
    寒さの残る春の夕方、街中で声をかける。
    「い、いえ・・・いいです・・・。」
    困ったように苦笑いをして去って行く、ピンクのマフラーの女性。
    帰りの電車の中で座った時や、湯船で雑誌を読み終わったとき、ふと僕を思い出したりするのだろうか。

    「あの人はなんだったんだろう?」

    あの女性に刺さったオモイデのカケラは、いつまで残るのだろう。
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    01:31 | トラックバック(0) | コメント(2) | エトセトラ | Page Top


    ■2006/04/17(月) マキコ

    「ふーん。なんでも、ね。じゃ、買い物に付き合ってくれる?」
    「有能そうなOL」の印象に違わず、マキコさんの決断は早かった。
    声をかけた後、喫茶店に入って二人でその日する事を決めるのがよくあるパターンなのだが、マキコさんは「1000円の男」の説明の件だけで、今日する事を決めてしまった。

    「買い物ね。勿論いいよ。では、お名前は?手は繋ぐ?」
    こんな質問も、いきつけのドトールの中でするのが、いつものパターンだ。
    「私はマキコ。手は・・・今はいいわ。ただ、後で繋いで。」
    最初に警戒していた人が、緊張が解けるにつれて手を繋ぐようになるのは、そう珍しいパターンではないが、「後で繋いで」と宣言されたのは、今までに無いケースだった。何か変わった事があるのかなと期待を膨らませて、僕は深く頷いた。

    「じゃ、こっちのビルだから。」
    そう言って歩き始めるマキコさんに、歩を合わせる。それが彼女の性格なのだろうか。それとも、もう買いたいものは決まっているのだろうか。彼女の歩みには迷いが無い。身長180cmの僕のペースよりも早く、マキコさんは進んでいく。

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    15:39 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/19(水) マキコ その2

    一秒を惜しむかのように先を急ぐマキコさんの後についていくと、駅前の大きな百貨店に入っていく。一度だけ、デパートの入り口の自動ドアで僕が着いてきているかだけを確認したが、途中に会話は全くない。

    エレベーターに乗り込み、婦人服売り場のある階のボタンを押すと、狭い室内が静寂に包まれる。平日ではないので他に買い物客が何人かいるが、他人同士の沈黙と僕たちの沈黙は質が違う。「無音」と「無言」の差は、大きい。見えないようにほんの少しだけ肩をすくめると、僕は覚悟を決めた。
    方角はまだわからないが、この女性のベクトルはとても大きい。頑張ってついていかないと、今日一日はバラバラになってしまうだろう。

    エレベーターの扉が指定した階で開いたとき、マキコさんの右手が、すっと後ろにいる僕の方へ差し出された。手を握るタイミングなのだと気付き、何も言わずにその手を握ると、マキコさんは強く握り返して女性服売り場の方へ進んでいく。彼女が引っ張っているように見せないため、僕も相当早歩きで着いていく。他の人からは相当せっかちな性格のカップルに見られているだろうな・・・なんて事を考えていると、あるブランドの店の前で彼女が歩みを止めた。
    女性物のブランドに疎い僕でも聞いたことのある、一流といわないまでも高級と認識されているブランドの販売店だ。

    「この店?」
    と、一応恋人風に聞いてみるのだが、返事はない。辺りを見回して、何かを探しているようなのだが、その視線は華やかに飾られている商品ではなく、誰かを探しているように見えた。

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    ■2006/04/21(金) マキコ その3

    やがて、女性の店員が声をかけてくる。マキコさんは、握っている手の力を少し強めて、
    「○○さんはいますか。」
    と言った。やはり、ここに来た目的は買い物ではなく、人に会うことなのだろう。
    「申し訳ございません。○○は、本日お休みをいただいております。」
    ちょっと戸惑ったような店員さんが答える。整った顔立ちをきりりと引き締めた、買い物客らしかぬマキコさんの顔に、緊張したのかもしれない。
    「・・・そう。わかりました。」
    そう言うと、くるりと踵を返した。とっさに繋いでいた右手を離して、左手を繋ぐ。あっけにとられている店員さんに愛想よく会釈をして、僕もその場を立ち去る。

    途中、華麗に季節を謳う服飾には目もくれず、下りのエレベーターに乗りこむと、するりとマキコさんの手が解かれた。さっきまでの気勢をそがれて、心なしか肩を落としている。

    「・・・もう、いいわ。ありがとう。1000円でいいのよね。」
    そう言って、財布を取り出そうとする。
    「あなたがいいと言うのなら、それでいいですけど・・・。出来れば、さっきの事の事情を聞かせてくれませんか。あくまで、個人的なお願いなんですが。」
    財布に入った手を触れぬように抑えて、僕は言った。マキコさんは少し驚いたように僕を見つめる。僕を初めて見るかのような表情だ。
    「そうね。少しだけどお世話になった義理があるし・・・じゃ、どこかでお茶でもしながら、話しましょう。」
    そう言うと、タイミングよくエレベーターの自動ドアが開く。
    やっと、スタートラインに立てた。そんな気がした。

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    ■2006/04/23(日) マキコ その4

    目の前にある喫茶店に入り、腰をかけると、マキコさんは僕に断ってからタバコに火をつけた。口から吐き出される細い紫煙が、彼女の疲れと落胆を代弁しているようだ。
    「さっきのお店は、去年まで働いていたところなの。」
    アイスカフェオレの氷をかき混ぜながら、マキコさんが口を開いた。僕は黙って頷き、話の続きを促す。
    「その時、一緒に働いていたのが○○さんっていう、さっき探してた人なんだけどね。」
    「うん。」
    話は淡々と続く。
    「今考えてみれば、後から店に入ってきた私が、店について色々言うのが気に入らなかったのね。色々衝突もして、お互いギスギスしてたの。」
    そう言って、手持ち無沙汰な様子でカフェオレの氷をかき混ぜる。せっかちな彼女の癖らしい。
    「それで、このままじゃお互い進歩がないし、ストレスが溜まるだけと思ったから、私のほうからやめるって言い出したんだけどね。○○さんに店をやめますって言ったとき、わたし、なんて言われたと思う?」
    そう言うと、眉を両手の中指で吊り上げた。○○さんの真似なのだろう。声色も若干高くなる。
    「マキコさん。あなたは、確かに仕事が出来て頭の回転も速いけど、感性と考え方が男の人と同じなのよ。それじゃ、ここの仕事には向かないし、いつまでたっても彼氏もできないわ。・・・ってね。あたし、本当に悔しくて。何が悔しいって、本当にその通りなのよ。それを、あの人にズバリと言い当てられて、グウも言えない自分が悔しかった。」
    灰皿に置かれたタバコの煙が、店内の喧騒に溶け込むように上がっていく。

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    ■2006/04/26(水) マキコ その5

    「その後、私はアパレル系をやめて、派遣会社に入ったわ。本当は別のお店でアパレル系をやりたかったんだけど、いいところが見つからなくて。でも、今やっている仕事はとても自分に合ってると思うの。」
    堰を切ったかのように、マキコさんは話を続けた。
    「悔しいけど、やっぱり○○さんの言う通りなのよね。考え方が理系っぽいっていうか、合理的に考えすぎちゃって。アパレルの仕事も楽しかったけど、今やっている仕事の方が、自分を生かせる気がするわ。それはとても楽しいし、満足しているのよ。ただ・・・○○さんの予言通り、ずっと彼氏はできないままだったの。」
    そう言うと目を瞑り、苦笑いをする。
    冷静に見て、マキコさんは人並み以上の、美人と言えるルックスだ。ただ、強い意志を潜ませた目と、整い過ぎた顔立ちが、簡単な付き合いが出来ないという印象を、男性に与えているのかもしれない。と、僕は思った。彼女の仕事が有能だというのなら、その印象は尚更だろう。

    「今日、あなたに声をかけられたときも、丁度そのことを考えていたの。いつもなら、男の人に声をかけられても通り過ぎるんだけどね。あなたがなんでもするって言うから・・・ちょっと、驚いた顔の○○さんが見たくなっちゃったってワケ。」
    そういって、肩の荷を降ろしたかのように、マキコさんは喫茶店のソファにゆったりと体を預けた。色々溜まっていた話を吐き出して、スッキリしたのだろう。
    「どう?納得してくれた?あんまり格好いい話じゃないわね、やっぱり。」
    そう言って薄くなったカフェオレの氷をおざなりにかき混ぜると、マキコさんは二本目のタバコに火をつけた。

    少しの沈黙の後、口を開いたのは僕の方だった。
    「これは単なる勘ですけど。」
    そう言って断ると、マキコさんの視線が僕を捕らえる。彼女の視線は、いつも真剣で、相手の目を真っ直ぐに受け止める。
    「○○さんは、あなたが僕を連れてきても、なんとなく見抜いていたかもしれませんね。」
    「・・・どうして?」
    マキコさんは心の底から不思議そうに聞く。
    「話は単純です。僕は、あなたと付き合いそうにないタイプの人間なんですよ。○○さんが人を見る目があれば、僕の内面をすぐに見抜かれると思いますよ。」
    そして、○○さんが人を見る目があるのは確かだろう。○○さんは、マキコさんの内面を言い当てている。マキコさんが男性的な考え方というのならば、○○さんは女性的な視点をもっているはずだ。
    「それじゃあ、あなたと○○さんは、私がどんなタイプと付き合うか、わかるの?」
    「ええ、多分。これからどんな人と付き合うかは、わかりませんが、マキコさんと付き合って一番長続きするだろうっていうタイプは、過去の経験からわかりますよ。・・・知りたいですか?」
    今度は、僕の視線が彼女を捕らえる番だ。マキコさんはタバコを口に当てたまま、深く思案する。
    「知りたい・・・のが正直な気持ちけど、聞かないでおくわ。もう、これ以上人に予言されるのはまっぴらよ。」
    そう言うと、マキコさんは意を決したようにタバコの火を消して、立ち上がった。
    「行きましょう。話をできて、よかったわ。少しスッキリした。」

    店を出ると、マキコさんは財布から1000円札を取り出し、僕に手渡した。
    「ありがとう。値段の割には、ストレス解消できたかもね。もし、また私を見かけたら声をかけてみてね。あなたの予言が当たっているか、知りたい気持ちはあるのよ。」
    それだけ言うと、美しい黒髪を一度だけかきあげて微笑み、雑踏の中へと消えていった。彼女らしい、迷いのない颯爽とした歩き方で、彼女は彼女の日常へと戻っていった。

    さようなら、マキコさん。気が長くてのんびり屋の、あなたと同じ歩調ではないのだけれども、あなたをずっと見守れる男性と付き合うと、長続きすると思いますよ。僕の予言が当たることを、祈っています。


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    ■2006/04/27(木) リエ

    「ねぇ、キスするとき、目を閉じないのね・・・。」
    リエさんは飽きれたように言うと、サイドテーブルに置いてあるミネラルウォーターに手を伸ばした。
    「うん。キスをする女性の顔が好きなんだ。自分の大切な器官と相手の大切な器官が触れ合う行為を、目を瞑って受け入れる表情は、見てて興奮するものだよ。」
    僕が答える。酒に弱いくせにリエさんにすすめられて飲んだスクリュードライバーが頭に残っているせいか、今夜は必要以上に饒舌だ。
    「ふーん・・・。よくわからないけど、変態なんだね。」
    そう言って、リエさんはペットボトルに口をつける。ゴクリと揺れる喉を、僕はじっと見つめている。
    「まぁ、1000円だからね。まともな人間は、1000円じゃ買えないよ。」
    僕がそう言うと、リエさんは満足そうに微笑み、ペットボトルを置く。
    「そうね。1000円だものね。ちょっと変態でも我慢するわ。」
    リエさんの両腕が、僕の首に絡む。
    「鍵は鍵穴にあわせて作られるんだよ」なんて台詞を飲み込み、僕の手も彼女の背中を求め始める。

    音楽の消えた室内で聞こえるのは、二人が立てる音だけ。長い夜が、粗目糖の様にゆっくりと溶けていった。

    さようなら、リエさん。良い夢を見てください。


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    05:28 | トラックバック(0) | コメント(0) | オモイデ | Page Top


    ■2006/04/28(金) ケイタイ

    声をかける女性を探す為に駅の構内を歩いていると、携帯電話で話しながら歩く人が多い事に、今更ながら気付かされる。「波長が合いそうな人だな」と思うことがあっても、通話中の人には、流石に話しかけられない。1000円の男だけではなく、キャッチやスカウトの人達を避けるお守りとしても、携帯電話は機能するのだ。

    僕も現代社会に生きる以上、携帯電話を持たないわけにはいかない。主に使うのは仕事の為だけど、「1000円の男」として女性と話しているときは、鞄に入れて鳴らないようにしている。女性に番号を聞かれることもよくあるのだが、基本的に番号を教えることはない。会うのは一度きりというルールがあるわけではないが、その女性と再び会えるかどうかは、縁と運命にまかせたほうが、清々しいと思っているからだ。

    携帯電話は「別れ」を減らしたのかもしれない。データさえ入力すれば、ボタン一つでいつでも連絡を取ることができる。だが、その反面で、登録はしたけど連絡はしない。そして、気がつけば疎遠になり、やがて忘れ去られるという電話番号も、増え続けるのだろう。

    二度と会えないのかもしれない。もう、話をすることはないのかもしれない。そう考えると、別れは確かに悲しい。だが、好きな人に忘れられるということは、別れる事よりも悲しい。

    机の引き出しにしまってあった古い携帯電話を見て、ふとそう思いました。


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    ■2006/04/30(日) シホ

    「これはお世辞とかじゃなくて、純粋な疑問なんだけど。」
    僕は、好奇心に負けて口を開いてしまった。目の前の女性は、シホさんという。今日最初に声をかけた女性で、「1000円の男」の質問をすると、「何それ、面白そう!」と言って、ついて来た女性だ。

    「なになに?」
    頬に手をついて、シホさんが楽しそうに聞き返す。
    「シホさんは・・・高校生?」
    「えっ、そうだけど?」
    質問へ間髪を入れずに答えてくる。それが当然、とでも言うように、何も臆すところがない。
    「やっぱりそうか。大人っぽいから、声をかけた時は、わからなかったよ。」
    「ふーん。大人っぽいってのは、メイクしてるから、よくいわれるけど。女子高生だと、何かマズイの?っていうか、なんで私が女子高生だとわかったの?」
    頭の回転が速いのだろう。矢継ぎ早に質問が飛んでくる。丁寧に化粧がしてあるその表情は、それとわかっていても、やはり女子高生には見えなかった。
    「女子高生に声はかけないっていうルールはないんだけどね。ただ、制服のままだったら、変な目で見られるかもしれないから、声をかけなかったかもしれない。」
    うんうんと、シホさんは頷く。
    「何で年齢がわかったのかというと、こうして向かい合ったときに手を見たんだ。手は年齢をごまかせないって言うからね。手の甲を見る限り、20代より若いかな?って思っただけだよ。」
    そう言うと、シホさんは水滴のついた紅茶のグラスから手を放し、関心したように自分の手をしげしげと見つめた。
    「へぇー。手から年齢がわかるんだ。ちょっとスゴイかも。」
    「手を隠す人はあまりいないからね。観察してみるとすぐにわかるようになるよ。」

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